車アプリによるマッチング率データに基づき、タクシー不足車両数を算定した大都市部等12地域におけるＮＲＳの参入状況は別掲�@の通りだ。最も早い4月から事業開始となった東京都特別区・武三交通圏では地域全体の法人タクシー事業者総数311社のうち、ＮＲＳの実施可能車両数の通知を所管運輸局から受けた事業者数が8月11日時点では111社、許可事業者数は99社であり、およそ3割強の事業者が参入していることになる。
　実施可能車両数の通知をもって参入を果たしたとみるか、実際に許可をもらって運行開始して初めて参入と言えるか、本来なら大した違いはないはずだが、制度運用が始まって間もない地域ほど審査のプロセスにあり、両者の乖離は大きい。また、許可はもらったが、ドライバーをなかなか確保できないで実際の運行開始がままならないというケースもあろう。
　という特殊な（＊案外特殊ではないかもしれないが）事情は除いて考えると、比較的先行していた地域では参入率は3割前後、高い地域は4割程度。名古屋などは5割超となっているが、大阪では2割弱にとどまっている。12地域合計では、法人タクシー事業者総数1161社に対して実施可能車両数通知済み事業者424社、許可済み事業者360社となっており、大都市部12地域平均では参入率は30〜35％程度ということになる。

「その他地域」は3割をわずかに超える
　大都市部以外の地域、すなわちアプリが普及しておらずマッチング率データが存在しない地域、自治体による手挙げ方式で地域のタクシー総数の5％を時間を区切って供給不足数とみなす地域などの、「その他の地域」についてのＮＲＳ参入状況（いずれも8月11日現在）はまったくもって濃淡まばらな状態にある。例えば軽井沢町では法人タクシー総数5社中4社が許可を得ており、参入率は80％となるし、青森では16社中14社で参入率は87.5％に達するが、一方で志摩市では今のところ15社中1社のみで参入率は7％弱である。
　とはいえ、その他地域平均では373社中115社が実施可能車両数の通知を所管運輸局から受けており、これに基づけば参入率は3割をわずかに超える。
個人的には善戦している方だと思うが、全タク連傘下協会会員事業者全社が「1社1両以上」という状況にはまだまだ遠い。
　もっとも、この場合の1社1両以上には「公共ライドシェア」（＝道運法78条2号に基づく自家用有償旅客運送制度）を含むということになっているから、公共ＲＳの現状のデータと照らし合わせてみないと正しい評価はできない（そのデータは国交省のホームページ上では公表されていない。ながらく準備中のままである）。

1時間当たり平均運行回数は0.9回
　では実際のＮＲＳの稼働状況はどうか？別掲�Aがそのデータだが、表中に示された21地域合計（平均）では、登録ドライバー数3943人、稼働車両数2万2969両、運行回数13万8168回で、1両1時間当たりの運行回数は平均で約0.9回になるとしている。稼働開始からの累計で1両1時間当たりの平均運行回数がもっとも高いのは名古屋の1.6回で、次いで特別区・武三の1.5回、大阪市域1.2回、福岡1.2回などが続き、少ない方では静清0.1回、志摩市0.1回などがあり、このほかにも0.3回、0.4回という地域も散見される。ただし、運行回数が少ない地域は稼働開始から時間が経っていないという傾向があり、時間の経過とともにサービスの存在が周知されて回数も増えていく可能性がある。
とはいうものの、数カ月が経過した段階で1両1時間当たりの運行回数が1回を大きく下回ったままでは採算上はかなり厳しいのではないかと推測される。本業のタクシーは各地で運賃改定が繰り返されて一息ついている状態というエリアが多いとしても、コロナ期間中の負の遺産の整理もこれから進めていかなければならない状況には違いなく、「ライドシェア解禁阻止」の大義のためだけに自社独自の判断でＮＲＳに参入する決断がつきかねることはあり得ることだ。
地方協会の果たす役割は大きい
　今後については、乗合タクシーの運行も含めて道運法78条2号の枠組みを活用し、地域公共交通会議等の場で地域の関係者の合意と支援の下で公共ＲＳの参入やそれに伴う負担を複数の事業者でシェアするなどし、移動の足の維持に地域のタクシー業界として何らかの意思表示をしていくことにも、これまで以上に力を入れていく必要がある。
　そうした雰囲気醸成のためにも、まずは都道府県単位でのタクシー協会が果たすべき役割は大きいはず。個々の事業者の英断を自然体で待つだけではライドシェアと闘えない。＜了＞
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