最近の動きを時系列で振り返ると、まず6月12日、通常国会の会期中に国会内で開かれた活力ある地方を創る首長の会の会合で、菅氏はタクシー事業者以外の者にもＲＳへの参入を認めるべきだとの考えを示し、これからのインバウンド増などを踏まえ、「多様な主体が参画できるようにすべきだ。網羅的に取り組むＲＳ新法が必要になる」と述べている。この会合には超党派ライドシェア勉強会を主催する小泉進次郎・元環境相も出席しており、小泉氏も菅氏の考えに同調している。菅氏は、「地方の足はどうしても車が中心。そのためにも、ＲＳ新法が欠かせない。乗る人が多くなるからタクシーとの共存共栄もできる。網羅的なＲＳが日本に必要な時は、もう来ているのではないか」と語った。
　6月23日の文芸春秋のオンライン番組での菅氏は政治資金裏金問題を背景とした岸田政権の支持率低下、自民党への政党支持率低下を念頭に、「刷新感を国民にもってもらえるかどうかが1つの節目になる」と述べ、自民党総裁の交替が望ましいとの考えを示すとともに、総裁選では新たなリーダーが出てくるべきだとした。菅氏は、このまま衆院選に突入した場合、政権交代が起きる可能性も指摘し、「自民党、与党で過半数を割るような雰囲気はやはりある」と強調。政治資金問題で岸田首相が自身の責任を取ってはいなかったとの認識も示した。一方で、次期総裁に誰を推すかについては、「まだ決めていない」と述べるにとどめている。
　こうした中、自民党の茂木敏充幹事長が6月30日、フジテレビの番組で、「総理になってやりたい仕事があるのは間違いない」と述べ、総裁選出馬への意欲を滲ませている。総理になってやりたい具体的な政策についても同番組内で「ライドシェアの全面解禁」「副業の解禁」「社会保障制度の抜本改革」などをあげており、ＲＳの全面解禁では政府としての閣議決定内容では不十分との姿勢を示しつつ、菅氏ににじり寄る姿勢も見せている。
　これらの動きと並行して菅氏が総裁候補と見立てた石破茂氏や小泉氏らと会食しているほか、岸田首相と麻生太郎・党副総裁との2度の会食などのほか、河野太郎・規制改革担当相が所属派閥のボス、麻生氏に総裁選出馬の意欲を伝えるための会食を行うなど、思惑をもった面々の動きが相次いでいる。
　与党内では、公明党が過去10年余にわたって国土交通大臣を輩出してきた経緯から、「安心・安全」へのこだわりに揺るぎはなく、デジタル行財政改革会議や規制改革推進会議での議論、規制改革推進会議前日の岸田、河野、斉藤鉄夫国交相による3者協議など、ＲＳ国内解禁に一貫性のある態度を示し続けている一方で、自民党内では総裁選を巡って誰がどのように合従連衡していくか、ライドシェア問題もそのためのツールと化している観は否めない。
　現在の岸田政権は岸田、麻生、茂木の主流3派（このうち、麻生派以外は政治資金問題で形式上は解散済み）が支える格好になっており、菅氏は無派閥や派閥横断の中堅・若手を支持母体としている。現在の構図は麻生、菅両氏のどちらが次期政権もキングメーカーとして君臨するかの闘いの様相も呈している。誰が主導権を握るにせよ、政権の枠組みが大きく変わらない限り、ＲＳ国内解禁を避けることはなかなかに難しいようだ。菅氏が指摘するように自公で過半数割れした場合はどうか。日本維新の会を連立に組み込む手法はどうだろう。維新は政治資金規正法改正に際して、衆院では賛成、参院では反対という醜態をさらしており、地域政党から国民政党への脱皮に躓いている。最近では足下の大阪府下の自治体首長選でも敗北を重ねており、往時の勢いを失いつつある。次の選挙では党勢拡大よりも、現状維持の守りの選挙を強いられる可能性が高く、連立の組み直しでも自公維政権が国民的支持を得られる可能性はあまり高くないだろう。
　さて、では野党側はどうなのか。野党第一党の立憲民主党は、4月の国政補選で全勝しているが、これは政治資金裏金問題での自民党側のハンドリングミスによる勝利であることは自他ともに認めるところ。本紙が読者のお手元に届く頃には東京都知事選挙の結果は出ているが、小池百合子知事、蓮舫候補の得票がそれぞれどの程度あったかで、立憲民主党の今後を占う1つの指標にはなるだろう。
　次の衆院選挙が仮に、「政権選択選挙」と位置付けられた場合、泉健太代表が次期首相で大丈夫かという不安もないとは言えない。とは言うものの、少なくとも政権交代でＲＳ国内解禁が現与党政権より早く進むとは思えないのだが、いかがであろう。＜了＞
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