岸田政権はＧ7　広島サミット後の衆院解散総選挙を目論んでいたとみられているものの、首相の長男・翔太郎氏の公私混同問題などで解散のタイミングを逃し、その後もマイナンバーカードのトラブル解消の目途が立たず、現在も内閣支持率は漸減中で、世論調査によっては不支持率が支持率を上回る状態となっている。岸田首相は依然として9月中とみられる臨時国会冒頭解散を狙うとの説も根強くあるが、来年9月の自民党総裁の任期切れ、総裁選を前に今秋に内閣改造、自民党役員人事を断行することは必至の情勢という見方が有力だ。公明・山口氏の会見での発言はそんな情勢を踏まえたもので、秋の内閣改造では国交相ポストを自民党に返すつもりはないことを明確化したものだ。こうした牽制の背景には、衆院解散を睨んで小選挙区の区割り改正、与党間でどの選挙区にどの党から誰を擁立するかのせめぎ合いがあったことはよく知られており、その代表格、発端とされるのが今に続く自公間の東京での選挙協力の停止である。

自民と公明の対立が選挙協力の停止へ
　衆議院小選挙区の「10増10減」をめぐっては東京都内の候補者擁立で自民党と公明党の対立が深刻化したことにより、相互推薦を行わないという選挙協力の停止に発展している。公明党側は自民党への推薦取りやめは東京都に限られるとしているものの、与党間の信頼関係には大きくヒビが入り、Ｇ7広島サミットの成功で6月解散・総選挙、7月投開票との岸田文雄首相の戦略にも影響が出た。
　もちろん解散の先送りはそれよりもむしろ、首相長男の公私混同問題などによる内閣支持率の低下が直接の原因ではあるが両党間の関係修復が万全でない状態は続いており、少なくとも来年9月の自民党総裁選までには解散総選挙があるものと常識的に判断すれば、具体性を帯びる内閣改造、自民党役員人事をめぐってさまざまな憶測を呼ぶのも当然だ。
　本紙でもすでに報じているところだが、公明党の石井啓一幹事長と西田実仁・選挙対策委員長は6月25日昼、国会内で、自民党の茂木敏充幹事長、森山裕・選対委員長と会談し、東京都における次期衆院選小選挙区の候補者を巡る交渉の経緯を踏まえ、公明党としての対応方針を伝えた。石井幹事長は記者団の囲み取材の中で、「東京における自公の信頼関係は地に堕ちた」と意図的に強い表現で述べており、同日の同党常任役員会で決定した方針を自民党側に伝えたという。伝達事項の具体な内容は�@「東京28区」で公明党として候補者を擁立しない�A公明党が候補を公認した「東京29区」で自民党からの推薦は求めない�B東京の小選挙区で公明党は自民党候補を推薦しない�C今後の都議選や首長選などで自公の選挙協力をしない�D都議会における自公の協力関係を解消する―という。自民党側は、党内に持ち帰って検討するとしたが、石井氏は記者団に、「党の最終的な方針なので、この方針を変えることはない」と述べる一方、「この問題は、あくまでも東京に限定している話。自公連立政権に影響を及ぼすつもりはない」としている。その後、東京以外の地域での相互推薦の話も出ており、しこりを残しつつも何とか決定的な対立は回避されつつある格好となっている。
　他方、Ｇ7広島サミットの成功を受けて、内閣支持率も大きく上昇傾向を見せていたものの、そのタイミングでの解散を逃し、岸田首相としては改めて解散のタイミングを計る必要があるが、9月中とみられる臨時国会冒頭が節目との見方が昨今出てきており、それ故に連立維持を前提とする中で公明党にどのポストが割り振られるかが同党にとっては非常に重要な関心事項となっている。衆院選をめぐっては選挙が遅れれば遅れるほど日本維新の会をはじめとする野党側の選挙準備も整うとの見方があったが、野党間の選挙協力をめぐり立憲民主党は迷走を続けており、日本維新の会や国民民主党は冷ややかな姿勢を崩していない。ばかりか日本維新の会は独自で選挙を戦う姿勢を強めており、近畿圏では衝突回避をこれまで続けてきた維新と公明はもはや共存が難しい情勢だ。自公関係がギクシャクしたままの状態を長引かせることは結果として両与党にとってもメリットのない話になるはずだ。

国交相ポストは近年公明党の指定席に
　とはいうものの、自公連立政権では国交相ポストは近年公明党の指定席になっており、自民党出身者が国交相ポストを担ったのは、旧民主党に政権を奪われる09年まで務めた金子一義氏が最後。現職議員の国交相経験者は、昨年の衆院選で石原伸晃氏が落選したことでゼロになった。前身の建設相、運輸相などを含めても二階俊博・元幹事長1人のみとなっており、幅広い業界を所管する国交相ポストを公明党に任せたままになっていることに自民党内の不満も高まっているという。
　実際、自民党タクシー・ハイヤー議員連盟会長の職は旧運輸大臣または国土交通大臣経験者が務める慣例になっていたが、現在の渡辺博道会長は現職閣僚（復興担当相）ではあるものの、運輸大臣や国土交通大臣の経験はない。このままでは国交相ポストを経験したことがあり、大物感を備えた自民党議員が育たないという長期的視点での課題は残る。ある程度の周期で自民党議員が国交相を勤められるような呼吸も必要になるだろうが、いま自公間にそんな信頼関係までは望めそうもない。（了）
<Topへもどる>