本紙『週刊交通界21・2014年５月26日号』を紐解くと、東タク協に川鍋執行部が誕生する際、抱える課題としてあげられているのは第一に富田氏が退任に当たってすべての副会長、専門委員長らから辞表を預かり、基本的には川鍋氏のフリーハンドで選任できる執行部体制の確立をあげ、次にその新体制での取り組み具体策の第一には「事業適正化」をどうするのか―をあげている。
　当時は、改正タクシー適正化新法に基づく特定地域の指定基準も未定で、政府の規制改革会議と国交省との攻防前夜でもあり、追加的供給輸送力削減のあり方は極めて重要な課題と考えられていた。結果として東京都下では、南多摩交通圏のみが特定地域指定となり、主戦場と考えられていた特別区・武三交通圏は準特定地域止まりとなったため、この問題はすでに懸案とすら考えられていないきらいもある。

取り巻く状況は３年間で激変
　一方、事業活性化については2020年の東京五輪開催を睨み、スマホアプリ配車対策の強化などもあげられていたものの、当時ライバルとして想定していたのは、米・ウーバー社ではなく、英・ヘイローネットワークであり、白タク解禁ではなく配車手数料のタクシー業界外部への流出を懸念するものだったことを思うと、たった３年弱で世の中は変わるものだとも言える。
　２期目の川鍋執行部はそのエネルギーの大半を白タク・ライドシェア上陸阻止に向けた事業活性化に注いだ。その代表例が今年１月30日からスタートした特別区・武三地区における初乗り距離短縮運賃だ。
　実績からも明らかな通り、日車営収は増収、輸送回数は増加となっており、少なくとも平均値を見る限り、一定の成功を収めたと評価して良いだろう。ただ気になるのは、関東管内を見ると同時期の他地域においても日車営収は増収となっており、輸送回数も多くの地域で増加にはなっている点があること。増収あるいはそれによる乗務員の賃金増があったとしても、「初乗り短縮のおかげ」とまでは断定できない。

立ち上がりは想定の範囲内に
　それはそれとしても、初乗り距離短縮運賃の実施については、制度改正を伴いかつ、すべての事業者に適用されることへのアレルギー反応は根強くあり、度重なる常任理事会や全事業者対象の説明会の開催などで何とか理解を得て台数ベースで約85％の要請書提出への同調を得て、収拾を図り、実施にもこぎ着けた。制度的には、「運賃組替え」という新手法を行政と一体で編み出しており、少なくとも平均ベースでは減収懸念は杞憂であろうと推定されたが、結果を見る限り今のところ想定の範囲内に収まっていると評価できる（あくまで平均値の話であるため、個別の事業者や個別の乗務員にとって減収になっているケースもあるだろう）。
　初乗り距離短縮運賃の評価に関する分析作業は国交省や関東運輸局が行うことになるが、関運局では事業者に対して３カ月ごとの実績データ提出を求めており、１月30日の新運賃適用開始から３月末日までのデータ提出は今年４月末に締め切られており、まもなくその作業に着手されるものとみられる。

次は事前確定運賃の実証実験
　３期目の川鍋執行部としての大きな政策課題は、全タク連がまとめた11項目の事業活性化策のうち、国交省の2017年度予算にも盛り込まれた「事前確定運賃」や「相乗りタクシー」の実証実験に本年度中に取り組み、３期目の後半＝２年目にはその是非を判断し、本格運用に踏み出すということになろうか。
　事前確定運賃についてその制度設計の詳細は未定ながら、基本的な枠組みについてはすでに国交省が東タク協会員事業者などを対象に説明会を開催済みであり、また、今月10日付で個別事業者の実証実験への参加意思確認を東タク協に要請している（回答締め切りは５月29日）。
　事前確定運賃には業界内にさまざまな意見があるものの、初乗り距離短縮運賃と異なるところは、本格運用する場合でも、その実施は個々の事業者が自由に判断できる点にあり、制度改正されれば例外なく実施義務を負い、拒否すれば運賃違反に問われるような性質のものではないという点だ。業界内の大勢の賛同を得て、７割ルールをクリアしなければならないようなものではないという点では、初乗り距離短縮運賃よりも拒絶反応は少ないのではないかとも言われている。

やってみなければ分からない点も…
　懸念材料を強いてあげるとすれば、事前確定運賃の場合、１回当たりの輸送では距離制運賃の1.3倍までの誤差を許容するものの、一定期間中の事前確定運賃適用の全輸送回数における運送収入はメーター上の時間距離併用運賃による場合の計算上の運送収入総額の98〜102％の範囲内に収まらなければならないとされており、実験に参加する各事業者が運賃設定上の前提とする予想需要と実需用との誤差が大きかったり、個々の輸送ごとの道路状況や気象条件の急変等により誤差が大きくなり、トータルでの誤差がプラスマイナス２％に収まり切らなくなる可能性も指摘されている。
　本格運用までに修正は可能だが、本格運用の際にも誤差がきちんと修正されるか否かもやってみなければわからない点がやや不安とも言える。

急浮上の相乗りタクシー
　相乗りタクシーについては、先ごろ一般紙上でも大きく報道され（別掲）、タクシー業界の新たな取り組みとして注目されている施策の一つだ。国交省の17年度予算にも盛り込まれていたものの、事前確定運賃の陰に隠れてか、事業者の認知度も低かったがここにきて徐々に関心の度合いは高まっているが、事前確定運賃のような具体的内容の説明会が開催されるところまではいっていないので、是非を論じるのはまだ早いかもしれない。

どうなる？「スマホdeタッくん」
　また、３期目の川鍋執行部にとって協会が運営するスマホdeタッくんアプリの今後をどう導いていくのかも重要な課題の一つであろう。スマホdeタッくん活性化特別委員会は紆余曲折の末、存続が決まったが、永遠の存続が保証されたとは考えにくい。主要無線グループの中では、国際自動車や東京無線協組もいまだ参加はしておらず、今後の日交グループの去就次第では、存続しても尻すぼみになる懸念も拭えないところだ。

６月には全タク連会長に
　３期目の川鍋執行部がこれまでと大きく異なる点は、川鍋会長自身が６月の通常総会で全タク連の会長に就任が予定されている点だ。これまでは事業活性化の名の下に取り組まれてきた初乗り距離短縮運賃なども、全タク連・富田昌孝会長の指導の下で実施が決まったこととしてなんとなく納得されてきた側面もあったが、これからは川鍋会長自身が名実ともに全国のタクシー業界の頂点に立ち、全国の業界を導いていくことになる。「全タク連で決まったことだから」ということだけでは東京業界の理解が得られないことも出てくる可能性がある。
　新倉尚文元会長の時代は数年ごとの運賃改定を繰り返し、その後半は運政審等でタクシー規制緩和の是非と闘い、結局規制緩和された。富田昌孝前会長の時代はその規制緩和の弊害を是正することに費やされた。

白タク・ライドシェアの合法化阻止
　川鍋現会長の時代は白タク・ライドシェア合法化勢力というこれまでとは全く異質なものとの闘いの時代に入った。そういう意味では業界を導く苦労もこれまでとは全く異質なものになると言わざるを得ない。３期目にはより困難な道のりが待っているが、「川鍋さんが会長で良かった」と後々言われるよう業界を導いていってほしいと思う。（了）