ライドシェアは含まれない」はずが…
別掲1(略)は、3日開催の政府のシェアリングエコノミー検討会議で、構成員の英知法律事務所・森亮二弁護士が「プラットフォーマーの法律問題」と題するプレゼンテーションの中で示したシェアリングエコノミーの具体的分野で、民泊のAirbnb(エア・ビー&ビー)や白タク・ライドシェアのウーバー、リフトなどの名前があげられている。
別掲2(略)では、規制緩和を実行しなければプラットフォーマーが目指す本来のビジネスモデルが国内で実現しないが、一方で業法がユーザーの安全安心を守ってきたという経過から、分野ごとにどこで折り合いをつけるか見極めが必要だとしている。その業法規制の代表例には民泊における旅館業法やライドシェアにおける道路運送法を紹介もしている。
別掲3では、従来の業法による規制が消費者保護のために正しく機能しているかどうかは疑わしい例もあるとし、その代表的な例として「改正タクシー適正化新法」における公定幅運賃をあげ、下限割れ運賃事業者によって提起された国に対する運賃変更命令差し止め請求訴訟で国側が連敗していることを紹介している。
誘導質問”は不発に
その森氏は当日の自由討論の中で中長距離相乗りマッチングサービス・プラットフォームのnotteco(ノッテコ)・東祐太郎・代表取締役に質問をぶつけ、既存業界との軋轢の有無はどうか、脅迫や圧力めいた話はないか―と尋ね、既存業界の性質の悪さを浮き彫りにしようと試みたが、東氏の回答は同氏にとって意外にも慎重なもので、ハイタク業界を念頭にしたご質問だと思うが―と付け加えつつ、「そうした圧力のようなことはない」としている。
ただ、東氏は「メディアからの取材で新興勢力のわれわれと同じ紙面に比較対象として(既存事業者側が)載るのは嫌だという話は聞いている」とも述べている。
また、構成員ではもう一人の弁護士、森・濱田松本法律事務所の増島雅和氏が「業法は消費者を守るためにあったとされ、既存業界の言うことはいつも『消費者を守るため』ということ。事業者が真面目にやろうとすればするほどクオリティは高くなるが、一方で、クオリティを少し落としてでも安く、広くやろうとすることが許せなくなってくるということがある」と述べた上で、消費者団体代表に「この点についてどう考えるか」と尋ねている。
これに対して日本消費者協会の松岡萬里野理事長は「業法の規制がすべて良いと思っているわけではなく、規制の枠を取り払った方が良いと思うものもある。例えば美容院と理容院の垣根などがそうで、美容院で顔そりができないのはなぜか。当該業界や行政の都合で消費者を持ち出しているだけということであり、今の時代にあった規制に変えてほしい分野もある」と答えた(あるいは受け流したと言った方が良いかも)。
産業技術総合研究所の持丸正明・人間情報研究部門長はバス事業などの例をあげつつ、「規制を緩くし、低価格での参入を認めれば事故が増えるということもある。規制緩和だけではなく、何か危険があるとなれば強くブレーキを踏めるような仕組みが必要ではないか」との意見を述べた。
「消費者の名を騙る」既存業界のハシゴを外せるように
これを受けて増島氏はさらに「スマートレギュレーションが必要だ。ちょうど良い具合の規制になっているかどうかが大事。消費者は保護されればされるほど良いということになるのか。消費者の名を騙る既存業界のハシゴを外すことができるようにすべきだ。消費者が納得していれば、『その規制は必要だ』と役所が言う筋合いではない」との考えを示している。初会合で確認した通り、「シェアリングエコノミーを推進していくための会議」としては十分以上に機能していると言えるだろう。
全タク連特別委が打ち出した9項目
こうした政府側の一部による議論の進行に先駆けて、全タク連ではライドシェア問題対策特別委員会のとりまとめを7月26日に行った。その結果を8月4日開催の臨時正副会長会議に報告し、各ブロック長たる各地域の副会長を通じてそれぞれの傘下都道府県協会に周知するとともに、特別委のとりまとめに対する意見やさらに追加すべき施策等への意見などをまとめた上で次回9月の定例正副会長会議に報告してもらう算段となった。
タクシー業界が今後取り組むべき施策として提示された項目は9項目で、@初乗り距離短縮運賃A相乗り運賃(タクシーシェア)B事前確定運賃CダイナミックプライシングD定期運賃(乗り放題)タクシーE相互レイティングFユニバーサルデザイン(UD)タクシーGタクシー全面広告H第二種免許緩和―があげられている。
(1)初乗り距離短縮運賃
初乗り距離短縮運賃については今月5日の「タクシーの日」から東京区部4か所の専用乗り場による実証実験がすでに始まっている。
初乗り短縮運賃自体については特別区・武三地区で運賃組替え要請が84%超の要請率で審査も始まっており、実験自体の意味合いとしては国の予算で前宣伝の役割を担わせた格好だ。理論的には組替えているのだから増減収率は当該地域の業界全体としてゼロである(初乗り乗車率の違いによる事業者間格差はあるだろう)。
東京以外の地方都市、都内でも三多摩地区のよう全営業機会に占める初乗り距離以下の乗車率が4割を超えてくるくらいに高くなってくると、もはや組替えでは対応不可能で、その場合、「運賃改定+初乗り距離短縮」の組み合わせが不可欠となろう。実際にはシミュレーションしてみなければわからないが、三多摩以外でも地域によっては中長距離で相当の値上げをしなければ初乗り距離を1キロ近辺に持ってくることは難しいとも言われている。
もともと初乗り距離が2キロに設定されているのは東京と隣接地域、大阪辺りだけだったことも考え合わせると、「初乗り距離短縮」という言葉に踊らされて、何が何でも1キロ近辺にしなければならないかどうかはそれぞれの地域でしっかり考えれば良い。
(2)相乗り運賃(タクシーシェア)
相乗り運賃(タクシーシェア)は言ってみれば正規タクシーによるノッテコ近距離バージョンのようなものか。サービスの原型としては米・ウーバーによる「ウーバープール」がお手本で、米国西海岸など自家用車での通勤が当たり前の地域で急速に拡大しているというもの。
(3)事前確定型運賃
事前確定型運賃はまだウーバーでも実現しておらず、現状では「事前運賃を予想しているだけ」にとどまっている。地図上の直線距離をもとに事前運賃を決定し、従来の運賃メーターも作動させて、安い方の運賃を収受するというやり方だ。
(4)ダイナミックプライシング
ダイナミックプライシングはウーバーでいうところの「サージプライシング」に相当するもの。ただし、全タク連案では混雑時割増は10%〜50%値上げとされているから、3倍〜11倍もあり得るウーバーに比べると随分と遠慮がちな設定だ。閑散時割引も10%〜50%とされている。
もっとも、現行法令の下では上限運賃選択の大半の事業者は繁忙時割増をとれるのか、制度改正が必要なのではないか、ひょっとすると閑散時割引しかすぐには実行できないのではないか―という課題もある。それも含めて議論をする―という姿勢が外から見えていることを意識した提案であろう。
(5)定期運賃(乗り放題)タクシー
定期運賃(乗り放題)タクシーはすでに一部地域で旅行会社から旅行商品として発売されており、完全なニューアイデアというわけではない。正にやるかやらないかだけの問題であろう。
(6)相互レイティング
相互レイティングは米国発のライドシェアでは当たり前のことだが、利用者がドライバーを個別具体的に評価することはともかく、ドライバー側が乗客を評価することがわが国の国柄に馴染むかどうか。提案では「乗務員は不審なお客様を排除することが可能」などとしているが、そもそも公共交通機関であるタクシーには乗車拒否は許されておらず、評価の低い乗客を米・リフトのように締め出すことができるのか、具体的な運用の詳細は不明だ。
(7)UDタクシー
UDタクシー車両の導入がタクシーにしかできないことかどうかは仮にライドシェア解禁に際して車両・車種制限を設ければ白タクでも可能になる話。五輪開催に向けて補助金も出ているから、五輪という「その時」に間に合わせるという意味では確かにタクシーならではということになろう。
(8)全面広告(9)二種免許取得要件緩和
タクシー全面広告や二種免許取得要件緩和についてはタクシー事業者の経営基盤強化に繋がる話であって、これがライドシェアへの対抗策という位置づけになるかどうかちょっと疑問。
むしろ、海外からの訪日客の利便性を高めるということならば、タクシー配車アプリの全国的普及とそのPR、とりわけ海外へのPRの強化、また、国内配車アプリの画面上の規格統一や機能統一、相互乗り入れなどがなぜ取り上げられていないのかとも思う。
次回の全タク連定例正副会長会議は9月14日の予定だ。それまで約1カ月余。この間には8月31日にも第4回シェアリングエコノミー検討会議が開催されることになっており、双方がどこまでそれぞれの策を煮詰めることができるか、強い関心を持って注視することにしたい。(了)
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