公共交通空白地から一転、多様な交通機関の実験地のような様相になってきた京丹後市。本紙では20日、丹後、網野、久美浜という市北部の「海岸3町」の状況などについて木村嘉充・政策統括監(兼企画総務部長)と企画総務部企画政策課の野木秀康・公共交通係長に話を聞いた。
―京丹後市の地域公共交通における課題とこれまでの経過をお願いします。
少子高齢化で需要減、「200円バス」の試み
木村 2004(平成16)年に6つの町(峰山、大宮、網野、丹後、弥栄、久美浜)が合併し、当時は公共交通という意味では丹鉄(京都丹後鉄道、以前はKTR)、丹海バスがあって、あとタクシーが各町に全部営業所があり、それなりに使える状況でした。しかし人口減少が続いて全体で毎年700人程度、10年で7000人が減っているということは、旧町の1つの町がなくなっているような状況。そんな中、少子高齢化が進み、交通の需要が減り、業界も困ってきて、公共交通対策が重要課題になり、10年前に200円バスという大きな取り組みをしました。
峰山から高校にちょっと行くところが平均して700円から800円したので、空気を運んでいるバスに補助金を出すよりは安くても良いから人を乗せよう、200円でも4倍乗れば元が取れるという発想でバスを安くして非常に利用が増え、全国から注目されました。高校生もバスで通うようになりました。
そういうことでタクシー利用も減ったということもあるかもしれませんが、特に海岸3町、丹後町、網野町、久美浜町というところで、タクシーの営業所がなくなってしまった。ここは日本海に面した観光の名所ばかりで観光客にも、地域の人にも不便を来すことが3、4年前から急に顕著になってきました。
(路線バス等)公共交通は数時間に1本なので、タクシーがないということは、いざというときに困ることになってくる。どうしたら良いのかということで、ちょうど地方創生の動きがあって地域再生計画でEV乗合タクシーの取り組みをしました。それまでは公共交通にタクシーはかかわらなかったのですが、あまりにも営業所がないのでEV車両は地方再生の交付金をいただきながら、また補助金を出しながら運行していただいた。新たな荷物輸送などもしていただきました。
丹鉄もウィラートレインズが昨年から上下分離で営業することになり、いろいろなサービスが行われるようになりました。
ウーバーアプリの提案を受け
鉄道とバスだけではカバーに限界があり、そこにタクシーの重要性がありまして、EVを走らせたところ、ウーバーさんが新たなアプリによって制限をしなくてもある程度地域で支え合うシステム(があるということで)。以前は有償運行でも結局はボランティアでした。ボランティアは最初は良いが長続きしない。運賃収入が自分たちに入らないので次の後継者がいないというのが大きな問題でした。ボラインティアには限界があるし、経済が成り立っていかない。そういったときにウーバーのシステムなら、運転者にもそれなりに賃金が入るし、運転者になりたいという市民もいれば、それを使いたいという市民もいて、しかもいつでも呼べるので、新たな需要が生まれる。今までのタクシーにない別の世界が生まれる。それで必要かなということで入れたわけですが、去年は国家戦略特区ということでNPOだけでなく企業でも参加できるような形で提案したんです。
その後、とりあえず、現行の法律でできる範囲の方法を模索した結果、今のNPOで始めてみようと「Win−Win」の世界でやっていく。地元の人だけでなく、観光客や旅館、民宿の方にも非常にインパクトがある事業かなと思います。人がたくさん来るということは今あるタクシー会社にも好影響が与えられる。やはり交流人口を増やすことが必要です。そういった形の相乗効果も期待して提案させていただきました。もちろん地域公共交通会議で地元のタクシー会社の方にもご了解いただきました。
そういうことなので、何か下手な縛り合いとか取り合いをしていたら良くならない。競争ばかりするのではなく、協力し合うようなお互いの相乗効果、人をたくさん集めてより便利にすることでより良いスパイラルを作っていく。今までは悪いスパイラルばかりでしたから。
―200円バスはどれぐらいの頻度ですか?
野木 1時間から1時間半、場所によっては2時間に1本。ほぼ幹線道路沿いにしか走りません。
木村 通学が主で、通院には難しいか。市営バスもあるんですが、それも200円で統一されています。
野木 市営バスは路線バスがかつて走っていたところを廃止代替路線的な性格が強いです。
木村 公共交通空白地の人口が段々減ってきました。公共交通空白地の定義は一応、自宅から最寄りの駅またはバス停まで500メートル以上離れている地域のことです。タクシーも空白地の解消には十分なっていると思います。高齢化が進むと市民からの要望もあるし、議会でも一般質問では必ず出るぐらい非常に関心の高い要求事項です。
―4、5月にはタクシー会社がまた進出したり、ウーバーのNPOも出発しましたが、その後はどうですか?
タクシーは継続性が課題
木村 進出してくださったので今までタクシーがゼロだったのが(網野町と久美浜町では)3両(丹タク1とタクシー2)に増えました。こういう取り組みをしてタクシーの本来の重要性もご認識していただきながら、地域の足として頑張っていただいていることで非常に喜んでもいますし、住民にとっては非常に良かったと思うんですけど、これがいつまで持続していくのか。今は本当に有り難いのですが、そこが課題です。
―具体的に住民の方から反響の声は届いていますか?
野木 タクシーが復活して良いと聞きますね。
木村 それと他の地域、大宮とか峰山から「こっちでも使えないのか」「ウーバーができないか」「EVタクシーは走らせてもらえないか」「値段もちょっと安いので」と結構言われます。「ちょっとそれは今は法的に無理なんです」とお断りはするんですが。
―タクシーは約3カ月、NPOは2カ月ほど経過しますが、それぞれの利用状況は?
野木 また直接聞いてもらいたいですが、久美浜タクシーさんは想像以上に少なかったとのご感想を持っておられ、網野タクシーさんは直接はお聞きしていません。松田(有司)社長は、公共交通会議の席では「黒字にはなっていないが、ほぼそれに近い形で順調に伸びていっている」というお話でした。
―NPOはどうですか?
野木 初日は新聞記者さんも含め20人以上が利用されましたが、その後は日によって上下しますので、何人かというところは定かではありません。とにかく問い合わせが非常に多いので、NPOさんとしては「しかるべき時が来たらきちんと公表します」と言われています。
路線バスも200円バスも、デマンド運行も走っていますので、ある程度需要が吸い上げられているようですが、この間もイベント運行があり、結構乗っておられたようです。
木村 ウーバーアイス。アイスクリームを持ってきてくれる、「それには登録を」というもので、全世界共通でやられていました。
―1日当たりの平均売上というようなのは出ないのですか?
具体的な利用状況は軌道に乗せてから
野木 NPOは当然持っていますが、今あえて公表することかという、タイミング(の問題)ですね。情報発信する時に、良いように取られたら良いのですが、出すことのリスクも当然あるので、そのあたりは慎重にしていきたいとおっしゃっています。市としてもその意向を尊重してます。
―あまり利用されていない?
野木 いや、利用は全くないわけではなく、あるんですが、1日何人ということになると「何だこれだけか」とか、いろんなマイナスのとらえ方もされるので。今は運行して軌道に乗せていく時期なので、きちんと離陸してから発表したいということです。
―1年ぐらい経てば、ということですか?
野木 いや、そこまではかからないと思います。
木村 (スマホ画面を見せ)今も1台動いてますね。
野木 お昼休みは(乗務員の)皆さんもご飯を食べられるのでオンにされてないので、大体3〜4台、多い時で8台動いてます。
―NPOにも地方創生の補助金は?
野木 全く入ってません。行政は初期投資の部分にコミュニティビジネス応援補助(補助率2/3)が使われています。昨年度は50万円。マグネットシート、ドライブレコーダー、ジャケットに使われています。
EVのような助成は不要
木村 EVタクシーではもっと莫大なお金を入れていかないとできないのを、(NPOの)こういう形なら持続可能なので、お互いにWin−Winで行けるやり方なのかな。車両も自分の車ですし。
―住民の方にタブレットパソコンが支給されているとか?
野木 それはウーバーさんから無償貸与されています。半年の期間ですが。ですからウーバーさんがシステムを提供して、システム料だけで儲かるビジネススキームだということですが、私たちはそういう感覚はまったくなくて、営業努力をされているという印象です。
―住民の満足度の公表も今はないのですか?
野木 やはり安いというのが一番大きいですね。
―一方で、進出したタクシーに関する満足度の報告はないのですか?
野木 出てきてもらって助かったという声は当然あると思います。直接市には電話はないですが、また聞きですが喜んでもらっているということです。
木村 NPOが使っているウーバーシステムでは、利用者が良かったとか評価していて、あまりに評価が悪いと運転者としてダメになります。
―悪過ぎて外されたとかは?
野木 今のところ聞いていません。運転者も地域の皆さんですから。
木村 逆に安心して乗れるというのもあります。観光客でも(アプリ)登録している人なので乗ってもらう運転者も安心ではないですか。クレジット(決済)ですし。
野木 透明性が非常に高い。領収書も降りる間もなくメールで、料金、通行ルート、乗降時間、距離、所要時間、運転者の氏名の情報とともに入ってきます。忘れ物をしてもすぐに分かります。さらにウーバーから「キャンペーン中で先ほどの料金は0円になります」と訂正まで入る。システムなので応用がいくらでも利きます。メール登録もされているので、アイスクリームキャンペーンなど、いろいろと情報も入ってくる。使った人の感想は「便利だ」というのが多く、画面上で車が近づいてくるのが分かるので臨場感にも溢れている。
木村 外国人観光客の方もクレジットが当たり前で、逆に現金を持ちたがらない。現金をやり取りしないので安心・安全です。
―高齢の方でスマホはもちろんカードも持っていないと使えないのでは?
木村 タブレットをお貸ししたり、登録の仕方をお教えしたり、カードがなくてもその方の家族が呼ぶことも可能ですので。
野木 スマホを持ってもらうことで生活、余暇、レジャーで楽しめるので、随時開催している説明会でもタブレットで遊び始めます。説明会も単にささえ合い交通を呼ぶためのものから、スマホの使い方教室、スマホで生活が豊かになるような趣向に変えてきています。「維持費がそれぐらいだったらしようかな」ということになっています。
木村 60代でも持っておられますし、その上の世代でも社会とつながりを持とうとして持っておられる方もいます。他の公共交通でも必要になってきます。
―網野、久美浜タクシーもスマホで呼べます。
木村 全国タクシー配車で呼べますね。それでもちょっと違いますね。
野木 パソコンでも一太郎、花子ってありましたがワードという汎用性の高い世界標準のものに変わってきました。日本も人口が減っているので、インバウンド需要の掘り起こしを考えると―。
「ウーバー」でインバウンド誘致も
木村 世界45カ国語対応、450都市で使われているので、「日本で唯一ウーバーが使えますよ」ということを発信し、インバウンド誘致も考えられます。
野木 息子さんが東京の外資系企業勤務で、ウーバーの存在を知っていて海外にも行っていて、「ウーバーが京丹後で使えるって凄いよオヤジ」なんていう連絡が入ったとの話を聞かせていただきました。実際に運行初日にはシンガポールの方が乗車されました。現金の授受がないので、為替レートを確認する必要もないです。
木村 丹後町にはXバンドレーダー(基地)に米軍関係者もおられるので、その方たちにも利用していただけたらと思っています。現状は夜8時までなので、もう少し遅くまでできれば、本当のタクシーのように飲んでも乗って帰れるということで需要は出てくると思います。それが地域の活性化にもつながってきます。今は飲みにも行けないわけですから、お店もどんどん疲弊してしまっています。都会が夜遅くまで賑わっているのは公共交通なり移動手段が確保できているからで、それがなくなれば都会ですら恐らく疲弊してしまいます。
―交通空白地が一転して丹タク、タクシー、NPOと3種類以上のものが出てきましたが、これからどうしますか?
「安くて便利な乗り物」を
木村 安くて便利なものが市民にとっても良いことだと思います。今後、いかに安くて便利な乗り物を提供できるか、それと安心・安全第一ですが。それがこれからの地域経済を回していき、安心して暮らせるようになれば人も減っていかない。そのためには市営バスもあるので、それぞれの業界でやっていかないといけませんが、ウーバーシステムは一つのイノベーション的なきっかけではなかろうかと思っています。
―地域交通会議は定期的に開かれていますか?
野木 議題があり、必要とあらば。1年に3、4回と結構やっていると思います。
木村 バスの路線の変更や運賃の改正などがありますから、そのつど関係者に集まってもらっています。
野木 うちでは福祉輸送の市町村有償輸送と合体して、地域公共交通会議が包括していますので、福祉有償運送の更新手続きも地域公共交通会議でしています。
―進出してきた網野、久美浜タクシーもメンバーですか?
野木 今は構成メンバーではないです。
木村 タクシー業界代表としては矢谷(平夫)さん(峰山自動車社長)が入っています。全事業者が入るわけではないので、それは業界の中で話し合われるでしょう。10年前に会議が立ち上がっており、当時は一杯タクシー会社がありましたが、代表して峰山さんが入っていました。今も他にタクシー会社がある中で、新しくタクシー会社ができたからといって、なかなかすぐには―というのもあります。(次号に続く)
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