――国家戦略特区法改正案の国会での成立、その附帯決議についての評価、また、京都府京丹後市でウーバーを介在させたNPO有償運送がスタートしたことへの感想をお聞かせください。
衆参附帯決議がしっかり守られるよう
富田 もともとはライドシェアプラットフォーム企業が全国各地の交通空白地を抱える自治体に働きかけたことによって国家戦略特区の問題が持ち上がった気配も感じられます。そもそもこうした地域でのバス・タクシーの輸送力供給は十分ではなく、地域住民の足の確保をどうするかという課題を抱えているところへ、インバウンド対策という新たな課題も重なってきた。ライドシェア側はそこへ目をつけたわけですが、安全確保の問題も国会ではさまざまに論議され、最終的に成立した法案では、ライドシェア解禁には至らず、現行道路運送法の枠組みにもある自家用有償運送の拡充にとどめることができた。附帯決議の内容については、業界としても評価できるものと思っていますが、何と言ってもその内容がしっかり守られることが重要です。
もちろん、バス・タクシーなどの公共交通機関が存在していない地域が特区の前提になっているわけですから、タクシー業界としては全タク連の乗合タクシー事例集などをもとにして、自ら住民の足の確保に動いていく必要があります。わたしたち公共交通機関で対応するための準備が整うまでは自家用有償運送にお任せすることがあるにしても、原則はわれわれ既存事業者が担っていく。また、そのための知恵と工夫、スピード感のある実行が必要です。これまでタクシー事業者は運輸行政の方ばかり向いていたきらいがありますが、もっと自治体の方を向いて積極的に接触を深める必要があるでしょう。
京丹後でのウーバーが介在するNPO有償運送ですが、これについてもそもそも現行法に基づく制度の運用が始まったに過ぎず、加えて今回のケースでもウーバーでなければできないことをやっているわけではありません。今、行われていることはわれわれタクシー事業者にもできる範囲のことであり、できるだけ早くタクシーがこれに取って代われれば良いと思います。スマホによるマッチング機能はタクシー業界にもありますし、黒電話で呼ぶアナログな方式、いずれにもわれわれは対応しています。
――-政府の骨太の方針、成長戦略の閣議決定について、どうご覧になりますか。自民党政調全体会議等の場で当初案の「ライドシェア」の文言は削られましたが、シェアリングエコノミー全体の推進は決定されました。
成長戦略の文言をめぐる攻防
富田 成長戦略原案にあった民泊については、政府部内全体での結論が間近に迫っており、出口も見えていたため、もう書き込む必要はないだろいうということで削られました。
過疎地等での自家用車活用についても国家戦略特区法改正案が出来上がっており、実質的には終わった話でした。そこで一件落着かといえば、シェアリングエコノミーの推進に関しては、関係者による協議会の立ち上げと今秋までの結論を得るとの一文(*ITの革新的発展を基盤とした、遊休資産の活用による新たな経済活動であるシェアリングエコノミーの健全な発展に向け協議会を立ち上げ、関係者の意見も踏まえつつ、本年秋を目途に必要な措置を取りまとめる)が滑り込まされているわけで、われわれとしてはこの部分こそ一番の問題だと感じています。
さらに文章の一部を削るか削らないかで厳しい攻防があったわけですが、すべてが思い通りに進んだというわけではなかったということです。わたしたちとしては、これは儚い抵抗かもしれませんが、そこへ「その際、消費者等の安全を守りつつ… 」という文言も逆に滑り込ませてバランスをとってもらったつもりです。ライドシェアに対してわれわれは常々、安全・安心に欠けると指摘しましたから、この部分にこだわったわけです。
――確かに成長戦略の閣議決定のシェアリングエコノミーの推進に関する本文部分はその意味では痛み分けというところもあるかと思います。一方で、成長戦略を推進するための具体的なエンジンとなるプロジェクトとも言うべき「改革のモメンタム〜『改革2020』の推進」の項目には、次世代交通システム・自動走行技術の活用の目標として「高齢者等の移動手段の確保・隊列走行の実現」があげられており、その中で解決すべき社会的課題として、「高齢者、障害者等の移動制約者を含むすべての人が安全・快適に移動することができる社会の実現」「人口減少社会における労働力(ドライバー)不足への対応」「シェアリングエコノミー社会のあり方を踏まえ、安全・安心と利便性の双方を確保できるビジネスモデルの作り込みを目指す」と書かれており、東京五輪での無人自動車輸送サービスの実用化と説明されていますが、その書き方はライドシェア導入をもイメージさせるものです。
富田 確かに読みようによってはライドシェアそのもののことを言っているようにも見えます。シェアリングエコノミーの推進として1項目立てた目立つ部分ではかなり削らせた一方で、目立たないところで、直接的な表現を避けつつこっそりこういうことも書いてある。結論としてここから先のことはまったく見通しが立たないというのが現状でもあります。改革2020の部分の書きぶりというのはなるほど曲者だなという意識は持っていますよ。
――成長戦略の「シェアリングエコノミーの推進」部分には、関係者による協議会の立ち上げと秋までの結論が盛り込まれています。ライドシェア解禁の論議は今後、内閣官房が主導するこの協議会ということになりそうですが、これへの対応についてはいかがでしょうか。
「ライドシェアは対象外」という基本認識
富田 現時点でのわれわれの認識としては、閣議決定された成長戦略の「シェアリングエコノミーの推進」には、対象としてライドシェアは含まれていないというものです。従って原則としてその協議会にわれわれが呼ばれることもないし、同じテーブルで議論することはないということになります。そのことは自民党の政調全体会議等の場で確認を求めたことでしたから、議連の先生方のもその線で頑張っていただきたいと思っています。
――政府の閣議決定した規制改革実施計画には普通二種免許の取得要件緩和も盛り込まれています。このことへのご感想を伺った上で、緩和後の具体的な取得要件についてはどのようにお考えですか。
富田 年齢要件と経験年数要件の2つが具体的な課題にあげられていました。われわれとしては一度に結論を出してもらえると有り難いのですが、その過程で安全確保に向けた課題を提示していただければ、それに対して具体的にどう対応すればよいのか知恵を絞ることもできる。
現行制度では18歳で普通免許を取得して3年経過し、21歳に達して初めて二種免許が取得できる。それを2年に短縮するだけでも、いろいろと条件は付けられるのではないかと見ています。どんな結論になるかは簡単には予想も付きませんが、業界としては警察庁に対して30年来お願いをしてきたことでもあり、議論の成り行きをよく見つめて、それへの対応を考えていくということになるでしょうか。
――6月8日の定例正副会長会議で設置が決まった「ライドシェア問題対策特別委員会」の設立趣旨、検討課題、今後の運営方針などについて簡単にご説明願えますか。
設置自体に大きな意味が
富田 白タク・ライドシェア問題が浮上して以来、正副会長会議を中心に意見交換し、知恵も絞ってきました。一方で特別委員会を新たに設置することそのものが、首相官邸・内閣官房あるいは自・公・民各党タクシー議連、国土交通省に対してもわれわれ全タク連の組織がしっかりしたものなんだと改めて示していくためにも必要だと思っています。
検討課題としては、政治活動をどうするのか―というテーマのように、これは坂本(克己・タクシー事業適正化・活性化推進特別委)本部長が中心的に担当しているとか役割分担が明白なものを除いて考えたい。過疎地等交通空白地をどう埋めていくかというような問題はこれまでも田中(亮一郎)地域交通委員長を中心に乗合タクシー事例集を策定していただいたりしてきましたが、そこに書いてあることを具体的に事業者にどう実行していただくかというようなこともこの委員会ではやっていこうと思っています。
19地域の特定地域に加えて新たな指定候補地ともども、特定地域計画の立案、認定やその後の事業者計画までは進んでおらず非常に時間がかかっています。ざっと見て、どちらかと言えば輸送力削減には消極的な地域の指定が多かったのではないか。そうなるとなかなか立法の趣旨に基づいて輸送力削減を進めることは容易ではない。しかし、もっと急いで対応しないと「タクシー業界は法律まで作らせておいて、ちっともそれを使おうとしないし、労働条件改善の成果も上がっていないじゃないか」との批判を招きかねない。たとえ少しずつでも、いまよりも乗務員の賃金・労働条件が改善していく方向に動いていかないと。これは東京だけでもいけないし、全国各都道府県がそういう方向に進むようにしなければならない。そうなるようにするにはどうすれば良いかということも新しい委員会でしっかりフォローしたい。
事業活性化については新しいタクシーのあり方検討会の最終とりまとめ「タクシー革新プラン2016」にも細かく対応していこうと考えています。さらにライドシェアがタクシーより優れているとして売り物にしているポイントについても研究し、われわれタクシー事業者がすべて同じことを実行し、それ以上のサービスを提供しようと思っており、委員会の活動の中でそういったことをより明快に出していきたい。その中で、各地域でやれることはやってほしい―と。
東京業界では個々に打ち出した施策についてはほぼ全部やるくらいでなければならないと思っています。政官界だけにとどまらず、メディアにも注目されやすい東京では地方とはちょっと違って、より多くの施策を切れ目なく打ち出し続ける必要があるでしょう。
細かいところではかつて東京業界で全車禁煙タクシーが実現した経緯も、東京タクシーセンターに届けられてきた利用者の声があってのことであり、こうした利用者からの声にもできるだけ対応するようにしたい。
新委員会が打ち出した施策が実行されれば、利用者からのタクシーへの評価が上がり、「タクシーは変わったね」と言われるようなものにしたい。きちんと対応すれば、東京業界が取り組んでいる初乗り距離短縮運賃のように議連の先生方や国交省も内閣官房に対して「タクシー業界はやるべきことはやっている」と言えるようになります。そういうタマはできるだけ多く必要だし、その意味で東京の初乗り短縮は大きな威力があったと考えています。
成長戦略の協議会に先んじて、7月末までに一定の結論
新委員会は次から次へと打ち出すタマを作っていく役割を担うものと思っています。これまでなら、「それは無理だ」で終わっていた話も、今の状況では前向きに対応していくしかないのだと思います。ライドシェア側は自らの優位点をさまざまな政府系の会議等でアピールしていますが、東京五輪誘致に際して世界一と評価された日本のタクシーが、いま日本国内では評価されていないというのは非常に皮肉なことですね。
いずれにしましても、この委員会は非常に重要な役割を担っており、しかもスピーディに動いていく必要がある。向こう1カ月くらい、7月末までには一定の結論を出したいと思っています。成長戦略によれば内閣官房主導での協議会が直ちに設置され、今秋には結論を出すとされていますから、こちらはそれ以前に具体策を決定し、実行していく必要があると思っています。あちらが先行し、こちらが慌てて後を追いかけるのではいけない。その際、トヨタ自動車さんの力も借りることができれば良いな―と思っています。
――昨年の全タク連通常総会において富田会長は冒頭スピーチの中で「白タク問題対策委員会」の設置を提案されています。その後、なんとなく沙汰やみになり、ほぼ1年ぶりに同様の委員会が結局は設置されるに至りました。この1年で何があったのか。
富田 まさかライドシェアのような白タク事業を国が許すはずがないと皆さん思っていたわけですね。しかし、時間の経過とともに「これは危ないぞ」という気配が濃厚になってきた。じゃあ、どうしたら良いかとなって、政治的な反対運動もしてきたわけです。それは自然の成り行きであり、必要なことなんですが、「果たしてそれだけで良いのか」ということは皆さん思っていたのではないか。それは私自身一番強く感じていたことでもあります。
また、委員会を立ち上げようと提案すると、「そんな委員会という形は必要ないのでは」というようなことは先月の正副会長会議でも今月の会議でも言われたりしましたが、しかし一方で、委員会を立ち上げるということ自体が大きなタマになると私は思っているわけです。業界として利用者のためになることを一所懸命やっているということを急いで形にしたかったということなんです。
1年前に設置を提案したものの、実現しなかったということはそれだけ皆さんに危機感がなかったか、やる気がなかったかということなんだと思います。しかし、現在の状況は成長戦略との兼ね合いや今秋というタイムリミットもあって、1日も早く実行に移していく必要がある。そのことは昨日(9日)の全国専務理事会議でも申し上げました。
――新委員会設置に対する反対、慎重意見というのはどういった内容でしょう。屋上屋を架すということで、既設委員会との活動内容重複ということでしょうか。
富田 ライドシェア問題というのは、現在のタクシー業界にとって最重要問題ですから、全タク連としての日常的な最高意思決定機関である正副会長会議で議論すれば良いとするものが一つ。もう一つには、こちらが専門の委員会を作って構えると敵も構えるのではないかとする意見ですね。
そこで双方が丁々発止とやり合えばマスコミには格好のネタを提供することになりますし、マスコミがタクシー業界に守旧派のレッテルを貼るのには好都合ということもあると思います。「やらなければ」という動機も、「慎重に考えた方が良いんじゃないか」という意見も両方正しいのだと思います。それでも短期間に集中して結果を出すことが今は必要なんだと私は判断しています。
その意味では新委員会のメンバーには夏休みなんてありませんよということは、いまから言っておきたいですね(笑)。
――そのマスコミの目等も意識して先月の正副会長会議では「活性化特別委員会」といったような名称を提案されたのだと思うのですが、最終的にはライドシェア問題対策特別委員会とされ、1年前の白タク問題対策委員会に先祖返りしたような印象ですね。
富田 そうですね。活性化特別委員会に変えてみたらやっぱり、白タク対策を前面に出したいという意見があって、また元に戻ったような格好です。名称について多くの人の意見を聴いてみると、いろいろな意見がありますし、どれがベストかはわかりません。これはなかなか難しい問題なんですよ(笑)。
――トヨタ自動車とウーバーテクノロジーズとの業務・資本提携についても伺いたい。ゼネラルモーターズ(GM)とリフト社との提携、フォルクスワーゲン社(VW)とゲットとの提携など自動車メーカーとライドシェアプラットフォーム企業との業務・資本提携が最新のトレンドとなりつつあります。
5月30日の豊田章男社長との会談でタクシー業界とトヨタとの連携が確認され、その際豊田社長から「わたしを信じてほしい」とのお話があったと聞いています。しかしながら業界全体の安全保障にかかわる問題を個人的信頼関係に委ねるのは危険ではないのでしょうか。
富田 自動車会議所の活動を通じて豊田社長のことはよく存じ上げています。あの方がきちんとした方であり、人間性としては信頼できる方だとも思っています。しかし、一方で今現在全タク連で闘っている相手に塩を贈るようなマネをすることは大いに問題じゃないかとも思っています。
「提携は取り消していただきたい」と
一般紙で大きく報道され、あとから業界への説明があり、そのことへのお詫びはありましたが、むしろそんなことは関係ない。内容の問題だということです。そのことは5月30日の朝にトヨタの担当役員が来られた際にも言ったことですが、業界とトヨタでUDタクシーの普及についてどうやって取り組んでいくかと相談している時期でもあり、その間にウーバー問題が起きて「トヨタのお力をお借りしたい」と話したこともあるわけで、トヨタ側は全タク連の置かれた状況を直接に聴いて知っていたわけです。知っていてこういう内容の協業ということですから、われわれとして大きな問題だと考えています。担当役員の方々はそこまで言われるとは思っていなかったようで、手に負えないと判断されたのでしょう。
会合に臨んだのはわたしのほか、川鍋一朗副会長、川村泰利・技術環境委員長、根本克己・同副委員長らで、皆が意見を言いましたが、私は「この提携は取り消していただきたい」と強く申し入れました。同じ日の午後には豊田社長が来られて再度の折衝になったわけですが、そこで最終的には日本のタクシー業界がウーバーなどに浸食されて崩壊してしまわないよう、業界とトヨタで一緒になって連携していきましょうということを確認したということですね。
――連携ということですが、具体的な内容はまだこれからとしても何か輪郭のようなものは見えていないんでしょうか。
富田 何をやるかについてトヨタ側からの打診も来ていますが、現時点ではもうひとつ抽象的だったり、今までの延長線上のものが中心で「これではちょっと」という感じでしょうか。もっとこう、柱になるようなプロジェクトがないといけないなと思っています。月内にはトヨタ側と打ち合わせを行って具体的な方向性についても検討を始めることになると思います。
メーカーとして「損もしないし、泥も被らない」というような提案だったら協力することに意味はありませんね。UD車両の改良とか、それにタブレットを乗せて使い勝手にちょっとした付加価値を上積みする程度の話ではつまらない。マスコミがギョッとするくらいの提案をお待ちしているのですが。
――さる5月26日、自民党に「個人タクシーを応援する議員連盟」が設立されました。設立総会に参加した議員の祝辞の中には「労働組合を通じて野党を支持する法人乗務員よりも、個人事業主である個人タクシーの方が本来自民党を支持してくれるものだ」との話もありました。従来からある自民党タクシー・ハイヤー議員連盟と個タク議連の利害は一致し、協調していけるものなのでしょうか。
富田 両議連には重複して参加している先生方もおられます。根本のところは同じタクシーですから法人も個人も同じなのではないかと思っていますが、同議連設立の趣旨は個人タクシーの総数がこれ以上減らないようにということなんだと見ています。字句文言通り新規許可を認めるということであれば、地域の需給そのものがバランスを崩し、1台当たりの生産性は落ちていきますから、やはり今の個人タクシーの台数がこれ以上減らないこと―が主眼だと理解しているのですが。
そうだとすると、地域の需給バランスが大きく崩れた中、法人タクシーは減らさなければならないが、個人タクシーは減らさなくて良いということになるのかどうか。法人の議連に参加しつつ、個人の議連にも参加しているという先生方はこれまでのタクシー適正化新法制定、同法改正や供給輸送力削減の経緯もよく御存知のはずですから、あまり突拍子もないことにはならないのではないかと思っています。両方の議連に参加されている先生方が議論を適切なところへ着地させる調整弁の役割を果たしていただけるものと考えます。
――さる6月6日開催の関東地方交通審議会・政策推進部会の会合で有識者委員(全国紙客員論説委員)から白タク解禁論議をすべきではないかとの趣旨で問題提起がありました。出先機関とはいえ、国交省直系の審議会で事実上、白タク解禁論議を提起する声があがったことへの感想を伺いたい。
白タクの問題点を説明してほしかった
富田 わたし自身は業界紙報道を通じてしか承知しておりませんし、細かな発言内容、そのニュアンスなどまでは分からないのですが、東京を含めた関東圏のことが審議対象になっていますね。委員の一人から、「白タクも交通、観光の担い手の一つとして議論の対象にしたらどうか」とのご意見があったとされ、それに対して他の委員や行政当局はどのように反応されたのか―の方に関心を持っていました。
報道でわかる範囲では関東運輸局側から「輸送の安全を確保していく点で白タクには問題が多い」との話はなかったようで、残念に思っています。そういった声があがるたびに、白タクの問題点をきちんと説明してほしいし、「だから過疎地等でもライドシェアではなく、自家用有償運送で対応することになった」ということはしっかり言ってもらわないといけない。そういう説明をしていただき、審議会に出席された民間有識者の方々にも認識を深めてもらえることに意味があるのであり、それがまた外へ向かって拡がっていくということにも期待しているわけです。今回のことは時間がなかったということなのかもしれませんが。
――大阪タクシー協会の公金横領事件の全タク連への影響についてどうお考えになりますか。会費納入の点でも東京、神奈川などと並ぶ全国有数の会員協会ですが、全タク連の今後の活動に支障はないのでしょうか。
富田 大タ協としても、金銭出納面を含めた協会運営の正常化を図りたいとの気持ちは誠に真摯なものであり、どのような形であれ正常化を果たしていただけるものと信じています。従って全タク連の活動にも大きな支障は出てこないものと見ています。
全タク連傘下には47都道府県のタクシー協会があるわけですが、大タ協以外の会員に対しては、「うちは大丈夫か」と自らを省みる機会にはなったと思います。大タ協会員の事業者にとっては大変厳しい事態ですが、全国的に見ればそういった点で良い機会になったという側面は確かにあったと思います。
――東京都特別区・武三地区における初乗り距離短縮実現に向けた運賃組替え要請が地域の法人タクシー総数の7割を超えました。そのことへのご感想を伺い、また、同地区の隣接地域に期待することがあれば合わせてお聞かせ下さい。
富田 東タク協の会長職を前期まで務めていましたからよく承知しているのですが、タクシー適正化新法成立時にも供給輸送力削減の問題をどうするかという重大な課題が持ち上がりました。その時も、東京業界の会員事業者の皆さんは非常に理性的にご判断をいただき、17〜18%程度までの減休車が想像以上にスムーズに進んだということがありました。全体として理知的、冷静な判断のできる方々が多いと感じました。それぞれにいろいろな言い分はあるけれども、最後には「なぜ、これをやらなければならないか」をきちんと判断する能力を備えておられる。その点は感謝し、また高く評価もしています。
走り出せば世間の期待を肌で
今回の初乗り距離短縮運賃についても要請率が7割を超えるのに2カ月かかりましたが、労働組合等の反対などもあって、簡単な話ではなかったと思います。現時点と実際にいよいよ初乗り短縮運賃が走り出すという時点では世間の評価は違ってくると思いますし、いざその時という段階では世間の期待を肌で感じることができると思う。その時、「大変だったけれど、良かったな」という実感を持っていただければと期待しています。結果、利用者=国民の皆さまに愛されてタクシー産業が発展していくことができればなお良いのではないか。
ライドシェア解禁、合法化問題がこれによって少しでもブレーキがかかるのであれば、それはやっておくべきだし、実際にそのための大きな、大きなタマになっていると私は考えています。議連の先生方に対しても国交省に対しても非常に強い後押しになっているとも思っています。全国一律のライドシェア解禁ストップに向けて東京業界が非常に力強い防波堤になったのだと評価しています。
隣接地域については大変難しい判断を迫られることもあるかと思います。東京から川一つ隔てて、運賃が急に変わるということで当該地域の住民からの抵抗感はあるのではないか。直接、東京都特別区・武三地区に隣接する地域の業界にはご苦労をおかけすることになりました。個人的にはできるだけ広い地域で実施してもらえれば有り難いと思っているのですが、利用者の反応も踏まえつつ、初乗り短縮実施に踏み切るのか否かはその地域の皆さんがお決めになることです。
東京都特別区・武三地区で先行して実施した結果を見れば、どのような効果があるのか否かもよくわかると思う。すでに7割を超えているわけですから、国交省も関運局も利用者のために速やかに新運賃の算定作業を終えて年内に実施できるくらいのスピードで作業していただけると有り難いと思いますね。それだけ早く東京の実績を周囲の皆が知ることができれば、その分だけ早く判断もできるということです。今秋結論とされる例の協議会の結論が出るころには東京の初乗り短縮運賃がスタートしているくらいの感覚で捉えているんです。
――最後に会員事業者の皆さんにメッセージがありましたらお願いします。
富田 タクシーも戦後だけでもう70年余になります。わたし自身もタクシー事業にかかわって50年余になるわけですが、これまで経験した中で他に比較するものがないほどの危機が今回の白タク・ライドシェア解禁、合法化問題だと思っています。もしも、これが解禁、合法化の実現ということになればタクシー業界そのものの存続が脅かされるものと考えています。その先に業界の発展などないのです。ライドシェア発祥の地の米国でもニューヨークやサンフランシスコの大手法人タクシーが次々と経営破綻している状況であり、日本でも同様のことが起こると考えられます。
すべての事業者が強く訴えなければ
この問題に対処するには特定の1人や2人の力ではどうにもならない。全国の事業者の皆さんがその力を最大限に発揮していただいて応援してもらわないことには対応できかねる―というのが現実です。中心にある全タク連もそうですが、全国各都道府県タクシー協会、個別の地域でも国会の先生方に強く陳情もしていただきたい。その際、与党も野党も関係なくすべての議員に陳情していただきたいくらいの気持ちです。「白タク・ライドシェアは地域住民の安全を守るためには大いに問題がある」ということを強く訴えてほしい。それなしには、わたしもこのライドシェア攻勢を防ぎきる自信はありません。ぜひ、頑張ってほしい。
――有り難うございました。
(6月10日、文京区の日の丸交通グループ本社で収録)
<Topへもどる>