同検討会では「人材確保・育成」「事業経営」の２つのワーキンググループを設置しており、前者においてはその名が示す通り、昨今の運輸事業全般における人材難をどのように克服していくか―が中心課題になっている。後者についてはより幅広く経営コストの効率化について論じるものとされ、運賃制度や燃油サーチャージなどについてもこちらで議論されている。

ＷＧも２回で議論を尽くす？
　４月24日の本検討会での報告によれば、人材確保・育成ＷＧ（座長＝鎌田耕一・東洋大学法学部教授）で論点としてあげられているのは、�@タクシー運転者の魅力を高めるための方策（広報戦略、イメージアップ）�Aタクシー運転者として「やりがい」を実感できる仕掛け�B地方部におけるビジネスモデルとは何か�C新卒者・女性採用による意識改革とその効果�D新卒・女性ドライバーの確保策（勤務・給与体系のあり方）�E事業者の取り組みをサポートする業界団体、行政の役割�Fその他、人材確保及び人材育成における課題―の７項目。
　一方、事業経営ＷＧ（座長＝太田和博・専修大学商学部教授）であがった論点は、�@事業経営の効率化＝経営コストの効率化（実車率向上のための方策＝適正配車による安定供給等、体質強化に向けた共同化・協業化＝地方におけるタクシーサービスの確保・維持を含む、事業者指導等の自主的な取り組み＝旅客自動車運送適正化事業実施機関による事業適正化）、乗務員の質の向上＝運転者登録制度の全国拡大�A運賃制度のあり方＝初乗り距離短縮運賃の本格的普及の検討、スマホ配車など新しいサービス形態への対応（割引クーポンにおける公正な競争環境の確保）�B燃油高騰時の対応＝タクシーにおける燃油サーチャージ制度の課題・他の方法の可能性�C営業区域の範囲―の４項目。
　これまでに本検討会は２回しか開催されておらず、その第２回会合に提示された論点整理案には、両ＷＧでの意見交換の結果を反映しているという格好になっているものの、そのＷＧは１回ずつしか開催されていない。今後、各ＷＧを１回ずつ、本検討会もあと１回開催して、もう中間とりまとめというのでは、「議論が尽くされた」という気がしないのだが、どうだろうか。「いや、十分議論はされている」との反論もあるかもしれないが、何しろ会議は非公開で、Ａ４用紙１枚程度の議事概要が公表されているに過ぎず、実感できない。

初乗り距離短縮運賃等に前のめり
　第２回本検討会で公表された論点整理案の中身に触れる前に文句を言ってしまったが、遅ればせながらその中身を見てみると（ファックスプレス関東版・４月25日号で既報）、具体的な項目は多岐にわたり、業界内外の意見が分かれそうなものだけ取り上げてみても、「高齢化社会が進展する中で、短距離移動についての潜在需要の掘り起しに初乗り距離短縮が有効ではないか。諸外国と比べて初乗り運賃が高いとの指摘に応えることにもなるのではないか」「スマホ配車について、タクシー事業者が行う場合と旅行業者が行う場合とで公正な競争条件を確保すべきではないか。特に割引クーポンの扱いについてどのように考えるべきか」や「地方において今後求められるタクシーのあり方とは何か。共同化、協業化についてどう考えるべきか。その他、乗合タクシー、少量貨物輸送や買い物代行についてどう対応していくか」「地方部における閑散時間帯の需要喚起のための運賃割引などにつてどう考えるべきか」「コストに占める人件費の割合が大きく、燃料費の割合が小さいタクシー事業について、燃油サーチャージ制度は合理的か。メーター運賃と別に収受することについて利用者に混乱が生じないか。ハイブリッド車等の低燃費車の扱いをどうすべきか。燃油サーチャージを収受しないこと等により過度の安値競争を招かないか」などが目に付く。
　スマホ問題の提起については、具体的に言及されているわけではないが、ウーバー問題を念頭においた業界側主張に配慮したものともみられるが、それ以外の運賃問題については初乗り距離短縮には積極的、燃油サーチャージには消極的、要するに価格が上がるものには消極的で下がるものには積極的というふうにも見えてしまう。
　こうした運賃問題については全国共通の課題でもある一方、論点にあげられた閑散時間帯での運賃割引や、共同化・協業化や貨客混載の問題などについては少なくともこうした課題にまず直面せざるを得ないのは地方業界とりわけ、郡部、中山間部、小都市が中心になると考えられるにもかかわらず、肝心の地方代表の事業者は本検討会の委員には参画しておらず、経営側代表委員はすべて東京の事業者であることも違和感を持たざるを得ない。
　特に共同化・協業化などは地方における中小零細事業者の市場からの退出促進につながる側面も持っており、確かに事業者団体が自ら提案することはほぼ考えられないだろう。しかし、避けては通れない問題として行政が主導して問題提起することは良しとしても、当事者が議論に参画していないことは合点がいかない。
貨客混載等については交通政策審議会・豊かな未来社会に向けた自動車行政の新たな展開に関する小委員会でも検討されているが、タクシー事業の在りようそのものが変わる可能性をはらんだ議論だけに、現行法の運用見直しを中心とした懇談会での議論に終わらせず、それにふさわしい場での徹底した意見交換が望ましいと思う。（了）
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