【東京】全タク連の田中亮一郎副会長兼地域交通委員長（第一交通産業社長）は6日、千代田区の第一交通産業東京支店で本紙のインタビューに応じた。今後の運改実績年度の取り扱い見直しの国交省の方針を歓迎するとともに、ＬＰガス高騰対策の補助金支給について、タクシー事業名指しの助成を高く評価。「一歩目がなければ二歩目もない」と強調した。一方、定額乗り放題サービス「Ｍｏｂｉ」やそれに類する新たな形態の輸送サービスの台頭については全タク連として統一的な対応を採ることは難しいだろうとの見方を示し、地域公共交通活性化再生法の中で地域の足を守るためには「何でもあり」との仕組みが仕込まれている以上、タクシー業界としては「タクシーにやらせてほしい」と訴えていく必要があると強調した。働き方改革がもたらす今後への影響については、二種免許取得要件が緩和されたからといって高卒新卒者や外国人労働者をやみくもに採用拡大して、自社の保有車両のフル稼働をただ目指せばよいというものではないと指摘。将来の完全自動運転の普及も念頭に、適切な採用・人員の配置などが必要になるとの考えを示した（詳細は『週刊交通界21・全タク連総会特別号』に掲載予定）。
　運賃改定申請・要請事案において実績年度を19年暦年とする旅客課長事務連絡について田中氏は、「コロナの影響による『単純な赤字補填は認められない』という考え方なんだと思う。例えば、今秋の行楽シーズンになっても人流が戻ってこなかったら、『運賃改定申請しても良いよ』というのが国交省の真意だった」との見方を示した上で、「現時点では秋まで待ってもタクシーの需要は戻らないと判断し、軌道修正を図ったのでは」と方針転換を歓迎した。
　ＬＰガス高騰対策の実施について田中氏は、東京五輪・パラリンピック大会などにより、ＪＰＮタクシーの普及が進んだとの見方を示し、ＬＰＧハイブリッド車の普及がこれほどでなければ、東京業界の燃料高騰による打撃はもっと大きかっただろうとした上で、「地方ではいまだにコンフォート系の車両を使っており、燃料費は東京の２倍」と述べ、政府による支援を高く評価するとともに、「まずは『タクシー事業』を名指しで補助金の予算を編成していただいたことは画期的」と強調した。
　ｍｏｂｉに代表される新たな輸送形態の台頭について田中氏は、既存のバス事業者などが地域住民の足を支えてきた事実があると指摘した上で「おいしいとこ取りはダメだという原則は確認しておく必要がある」と強調しながらも、「地域の足が十分に確保されていない場合には、それも『ｍｏｂｉが補完します』というケースも出てくる」と述べた。東タク協などが強硬に反対の姿勢を示していることも念頭に置きつつ、「全タク連として全国統一的に一律の対応が可能かと問われれば、難しいのではないか」との見方を示した。また、田中氏は、ウィラーの狙いはｍｏｂｉによって足場を築き、そこを拠点に本業の都市間高速バスを拡大していくことにあるのではないかと推測する。その上で「ｍｏｂｉのようなことは、われわれタクシーにやらせてほしいと言うべきだ」と強調。地域公共交通活性化再生法では地域の足を守るためには「何でもあり」の仕組みが仕込まれているとし、そのことは地域交通委員会としてかねてから警鐘を鳴らしてきたとした上で、「同法ではタクシーがやらなければ次のもの＝タクシー類似の何物か―がやることになっている。次のものにはタクシーのような認可運賃はなく、運送の対価も何でもありになりやすい」と警告。さらに「実際に自治体に地域公共交通会議が設置されても、地域のタクシー代表がメンバーとして呼ばれていないこともあるということが大変な問題だ」と強調した。
　働き方改革や改善基準告示の見直し等が今後に与える影響について田中氏は、「高卒新卒や外国人労働者の採用拡大と言っても、最低賃金を支払う能力がなければならず、それだけの売上を作るための仕事があるかを見極めなければならない」と指摘。あわせてウーバーテクノロジーズが米本国で請負形態にこだわる背景には将来の完全自動運転化があるとの見方を示し、「とにかく持っているクルマをフル稼働させればよいということではなくなってきた。昔は１両当たりの走行距離と営業収入は比例していたが、いまは違う。メーター運賃以外の仕事をどう付け加えていくかが非常に大事だ。長期的には地方業界の構造問題に加えて、将来の完全自動運転もにらんで考えておくことが必要だ」と述べた。
〔6月11日号関東版掲載〕　 <Topへもどる>