「タクシーの進化」が追いつかない１年
―振り返ってみて20年度はどのような年だったでしょうか。

伊藤　本来はタクシーが、産業として大きく飛躍できる年だったはずなのに、コロナ、コロナで終わった１年となってしまいました。
新たなサービスである初乗り距離短縮運賃や事前確定運賃の事後検証も依然としてできていない―など「低迷」と言わざるを得ない状況となっており、コロナ禍にあって動きの速い世の中に対して、タクシーの進化が追いついていけない１年だったと言わざるを得ないのではないかと思います。

―神奈川業界の現状をどのように見ていますか。

伊藤　ゴールデンウィーク辺りから売上の落ち込みが目立ちます。若者を中心に人出はあるようですが、コロナ変異株への恐怖というものが強まって、マイカー利用なども増えているようで、ここに来てタクシーへの需要は落ちてきていますね。
昨年の“第１波”の時ほどの落ち込みではありませんが、若年層以外の成人は変異株への恐怖が心のどこかにあって、行動抑制にもなっているのではないかと思います。

―飲食店での酒類提供が事実上止められてしまったことも大きいのでしょうね。

伊藤　そうですね。夜間の需要が多くを占める業界にとっては大きい痛手ですね。

始まった転院支援業務
―新型コロナウイルス陽性者の移送やワクチン配送など、新たな需要というべきものが出てきていますが、それらへの対応はどのようにするべきと考えますか。

伊藤　従来からの需要が大幅に減ってしまっていますので、コロナの時代にはコロナ関連で少しでも活路を見出せたらという思いがあります。ワクチンの輸送などは国や自治体との良好な連携があってこそできることですので、密に連絡を取っていかなければならないと思っています。

退院基準合致者の転院支援業務も
―県からの依頼で、新型コロナウイルス感染症の退院基準を満たした患者の転院支援業務（注）も始まりましたね。

伊藤　ええ、すでに新型コロナ患者ではなくなった人々の移送ですが、広い意味ではコロナ関連の需要と言うことができます。社会貢献の側面もありますので、そうした新しい需要はしっかりと確保していかなければならないと考えています。

―コロナ禍のタクシー経営には何が最も重要と考えますか。

やはり「人」の問題
伊藤　やはり「人」ですね。募集をすれば、飲食店など厳しい業種で働いていた人たちがタクシーに来てくれるかなと思っていましたが、非常に難しいです。かつては景気が悪い時には悪い時なりに人が集まってくれていたものでしたが、今回はまったくそのような経験則が通用せず、逆に既存の乗務員の方が、感染者が乗ってくるのではないかという恐怖心のため業界から去っていくケースも少なくありません。
今後、いかにして人を確保していくかが最重要の課題であることは間違いありません。

―新たな人材は、まったくと言っていいほど入ってこないのですか。

伊藤　まあそうですね。神奈川タクシーセンターの運転者証交付数の推移を見ても分かるように、入るより辞めていく方々の方が多い状況です。やはりタクシーに乗務すること自体への心配が求職者にはあるのではないでしょうか。

―そうかもしれませんが、感染対策を施しているのに、乗務中に感染する可能性がそんなにあるでしょうか。感染した乗務員のほとんどが家庭内など、業務外感染と聞いていますが…。

伊藤　そうですね。小まめな換気はもちろん、飛沫防止シートやアクリル板、空気清浄機の設置などにしっかり取り組んだ上で、「お客様にとって」だけでなく「乗務員にとって」も安心・安全なタクシーであることをアピールしていくことが大事でしょうね。

担いたい被接種者、ワクチン輸送業務
―いま、政府あるいは自治体に対してどのようなことを求めますか。

伊藤　やはり新型コロナウイルスのワクチン接種にあたって、高齢者や移動困難者の皆さんを接種会場にお連れする際、タクシーチケットを配布するなどの補助をぜひお願いしたいです。
さらに、町の病院へのワクチンの配送も担当させていただきたいと思います。

―21年度はどのような年になるでしょうか。

伊藤　まずキャッシュレス化がさらに進む年になるでしょうね。当県の場合はまだ売上の半分までは達していませんが、この流れは止まらないでしょう。
需要面では法人はテレワークの普及、個人客はマイカー利用増のため、どちらも振るわない恐れがあるのではないでしょうか。訪日外国人についても当面、厳しい入国制限が課されることでしょうから、東京五輪にかかわらずインバウンド需要は「ほぼ無い」と考えておいた方がよいのだろうと思います。

コロナ収束への期待
―ただ、最近の欧米諸国のニュースを観ると、ワクチン接種の普及によってマスク無しの会食や自由な外出など“正常化”が始まっています。

伊藤　まあ日本の場合は、そうなるまでに半年程度はかかるかもしれませんから、そこまでいかに自粛によって抑え込めるか―という考え方になりがちですけれども、そうなればわれわれは「商売上がったり」になってしまいますので、一刻も早く全国民にワクチン接種が行き渡り、感染者ゼロを実現していただきたいものです。

―21年度の始まりにあたり抱負を願いします。

伊藤　いずれは全国民にワクチンが行き渡り、感染者も減っていくと思います。東京五輪開催についてはまだ流動的なところがありますが、ワクチン接種の広がりによって外出しやすくなり、人流も回復してくれば、まったく同じではないにしてもかつてのような世の中に戻るでしょう。しっかり辛抱しつつ、感染しないよう身の回りには十分に気をつけて対応していただきたい。
　その時を期待して頑張っていただきたいと思います。（了）
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