「自動車運転者の労働時間等に係る実態調査」は、改善基準告示見直し議論の参考とするために昨年10月から今年３月まで、事業者と運転者双方にアンケートとヒアリングを行ったのをまとめたもの。タクシー・トラック・バス合計で1293カ所の事業場、9590人の運転者に実施した。

分量と偏り―十分な調査と言えるのか？
　うちタクシーは47都道府県の188カ所、3760人に対して行われたが、全国１万5000強の事業者、37万人の運転者を擁することを考えると、どちらも１％程度の調査量に過ぎず、回答数・回答率となるとさらに少ない（事業者が73件、38.8％、自動車運転者が703件、18.7％）。たびたび修正されながらも長年にわたり基本的な骨格は維持されてきた改善基準告示を見直すにしては、十分な調査が行われたとは言い難いのではないだろうか。
　また、ハイヤーのことは調査していないし、委員会で検討もしていないのだから、今回の検討対象の呼称は「ハイタク」ではなく「タクシー」とすべきだろう。
本調査で特に問題と思われるのは、調査比率が東京23区など都市部19.2％、地方部80.8％となっていることだ。言うまでもなく両者は仕事の形態が異なる。調査比率の少ない都市部の実態が十分には反映されない結果となっている恐れがあるのではないだろうか。

運転者の９割が「13時間以下で構わない」
　配布された同調査概要によると、繁忙期（タクシーについてはコロナ禍の影響のない19年12月に設定）、１日の拘束時間が13時間以下だったのは事業者側調査では79.4％。これに対し運転者側調査では、「19年１月〜12月で最も忙しかった１日」における拘束時間が13時間以下だったのは57.7％、16時間超（現行の最長の１日当たり拘束時間）は10.8％だった。
　「適切と思う１日の拘束時間」について事業者側は必要回答数に達せず、運転者側は90.7％が13時間以下と回答。「最も忙しかった日」の休息時間が８時間以上の割合は70.8％、運転者自身が適切と思う休息時間について８時間以上としたのは60.3％だった。
　このほか、欧米諸国の労働時間の例外規定や疲労度に関する医学的な調査結果も発表された。

休息時間３時間増を要望
　意見聴取では、労働側の久松勇治委員（私鉄総連社会保障対策局長）が、24年４月から適用される「時間外労働960時間上限」に向けて労働時間の短縮が必要だとして年間3300時間（＝月間275時間）以下、休息時間については日勤を現行比３時間増の11時間、隔勤を同４時間増の24時間必要と求めた。このほか、長時間労働を誘発する累進歩合への厳格な対応も要望した。
　一方、経営側の武居利春委員（全タク連副会長兼労務委員長）は、日勤の休息時間を３時間延ばせば拘束時間は自動的に３時間減の10時間となるが、これでは経営が持たなくなると述べ、経営を維持しながら運転者も必要な収入を確保できる拘束時間を追求する必要があるとして、１日の拘束時間を現行に比べ１時間減の12時間（法定労働時間８時間と休憩１時間を除くと時間外労働は３時間と想定）、24日勤務で月間288時間（＝年間3456時間）を要望。
　その上で１年のうち多忙な月が３〜４回あるため柔軟な対応が必要だとし、１年を３分割して４カ月管理方式にし、４カ月のうち多忙な月は288時間超、そうでない月は288時間以下として４カ月合計の拘束時間（288時間×4＝1152時間）を守る方法を認めるよう求めた。
　また隔日勤務については、現行の262時間を維持する一方、繁忙日に対応するため、１日の拘束時間21時間を緩和して、労使協定により月間４回１時間延長できるよう要望し、繁忙でない土・日曜日の拘束時間を短縮すれば月間262時間の順守は可能―などと求めた。
　累進歩合については、「働きやすい職場認証制度」への認証登録などを通じて、業界をあげて積算歩合に組み替える取り組みを持続的に行っている―として理解を求めた。

休息時間是正は働き方改革の肝
　トラックとバスの労使がそれぞれの要望、意見を述べた後、松永次央委員（全自交労連書記長）は、1979年以来、休息時間は８時間のまま据え置かれていると前置き、長時間労働と低賃金により若年労働者が参入してこないことを考えた時、累進歩合制をやめて十分な基本給を支給する体制に変えていくとともに、労働者が「家庭と向き合える」ように、休息時間を十分に取ることができる業界にすることが不可欠だと主張。「現行８時間の休息時間を11時間とすることをトラック・バスと３モード一体で進めたい。休息時間の延伸こそが働き方改革、長時間労働是正の肝であり、切なる願いだ」と述べた。

休息時間から逆算して
　　拘束時間を規定する手法に異議
　これに対し武居氏は、流し中心の都心部では「休息時間８時間」とされながら10時間程度取れているのが実態だとした上で、トラックやバスと違い歩合給制のため「基本給」といってもイコール最低賃金である事業者がほとんどを占め、これに達しなければ最賃部分を補填しているのが現状だとし、休息時間の延伸のみを主張し、賃金に直結する拘束時間が縮減されることを意に介さない労働側の姿勢に不満を表明した。
その上で、「休息時間を11時間に延長し、拘束時間を逆算して割り出すべし」との考え方に従えば、最大でも13時間拘束、通例から考えるならば10時間拘束となり休憩１時間、ハンドル時間は実質９時間となって、最賃と大差ない20万円程度の賃金しか確保できない、これではさらなる労働力の確保は困難―と異を唱えた。
　武居氏は、休息時間の延伸が拘束時間の縮減を意味することを認識する必要があるとし、「歩合給での仕事であることを想像してもらいたい。仮に毎日の休息時間が11時間に固定されるなら異を唱えざるを得ない。忙しさに応じ、日によっては11時間休息、日によっては８時間休息―と柔軟な対応を取ることができるなら譲歩の余地はある」と述べた。
　今後の検討は業態ごとに行うこととし、３業種に分かれ、「自動車運転者の労働時間等に係る作業部会」をそれぞれ設置することを決めたが、わが業界の議論はどういう道筋をたどることになるだろうか。
　労使は一見、妥協の余地がないほど対立しているように見えるが、注目すべきは、経営側が拘束時間の確保のみ主張しているのに対し、労働側は休息時間の延伸一本やりだということだろう。こうした労働側のやり方を経営側は「ずるい」と見ているようだが、逆に労働側が拘束時間の数値まで明瞭に主張してきたら、それこそ互いに譲歩が難しくなるのではないか。
　労使双方が皆まで主張して争っていないのは、歩み寄りの可能性が少なからず残っているということだろう。作業部会での検討を待ちたい。（了）
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