―6月29日付で事業改革の実行を公表されています。役員の削減など組織体制の変更にも取り組まれるということですが、体制変更の狙いなどについてお伺いしたい。
西川 役員数の削減に取り組んだわけですが、これまでの役員の数が環境の変化に十分に対応していたのかということもあります。それは本社体制も同様です。組織の最適化を図るべく、少しスリム化するべきだなという意識は少し前からありました。
今回の改革は、新型コロナウイルス感染症の影響拡大が一つのきっかけになりましたが、基本的には本社の下に位置する事業会社の体制を見直し、それに合わせ、特に事業会社は自主性をもって経営に取り組んでほしいということがあり、次に続く経営者を育てていくという意味でも、まずは本社と事業会社・営業所はフラットな組織にしていきましょうと考えました。そして、階層もできるだけ少なくフラットな組織の方が、今まで以上に結論が早く出せる、前に進めるようになり、その体制を作りたかったということですね。
―これまでも国際自動車グループの場合、事業会社・子会社の社長は他の大手などに比べ若い人が多かったと思いますが、組織改革で意思決定のスピードが速くなるということになかなか結び付きません。若い社長は他社の営業所長と権限としては大差なかったということなんでしょうか。
意思決定のスピードをより速く
西川 大差ないということではなく、意思決定のスピードをより速くするということを、今度の改革で変えていかなければならないと思っています。これまでは、本社主導型から脱皮しきれていない面もありました。若い若くないというより、一人の社長がタクシー子会社7社と横浜をみるのには負荷がかかり過ぎた面がありました。そこで、今回の組織改革にあたり、経験のある人たちに社長を任せ、半分ずつ見てもらう―そんな組織の方が良いだろうということでタクシーは2社体制とすることとしました。
―タクシーの場合ですと、2社体制だと1社当たり1000両規模になるかと思います。それはそれでトップの目が行きわたらないということはないのでしょうか。
西川 それぞれの事業会社に営業所長がおり、所長たちについても、今まで以上に現場をきちんと管理し、現状を把握していってもらえればと期待しています。それによって社長が必要とする情報は必ず上がってくるものと思いますし、そうでなければなりません。社長としては営業所長、その下の管理者をきちんとまとめていくということを期待しています。
従来、現場の社長は営業所長的な役割まで果たしていた面も多少ありましたが、今回の改革は、社長は、営業所長や管理者以下の統括、会社マネージメントに徹し、一層経営者としての意識を変えていくという側面があると言えるでしょう。
―本社機能のスリム化についても従来の9部2室体制から3部2室体制へと変更されたわけですが、その狙いについて伺いたい。
コロナ禍での取り組みから
西川 コロナ禍が日常になってから、われわれとしてもテレワークをやったり、さまざまな試みをやってきましたが、当初は本社部門の出社人数を約3割に抑えようと取り組んできました。現在では8〜9割に戻りつつありますが。この間、部署の実情に合わせて出勤率を変え、またフレックスタイム導入もしましたし、事業会社では出番調整の実施に合わせて職員の出社数もいろいろ試しました。
ここに至るまでの間、われわれの意識を変えていかなければと思ったのは、「9時から5時まで会社にいれば仕事をしたことになるのか」ということですね。決してそうではないと思います。いまの人数をそのまま抱えていていいのかどうかと考えると、将来的にはそうではないだろう―と、思っていたわけです。
そういう中で、一度縮小してみて、そうした新体制の中でも支障を出さないように、できるだけ現場部門と本社部門がフラットな組織という意味でも、国際自動車の取締役が部長を委嘱されるような、そんな組織に変えてみたということで、その機能性や効率性を検証し柔軟に対応していくことが重要です。ただ、長期的にもフラットな組織であるべきだと思っています。
―直営事業会社の方針について伺いましたが、今後の業務提携会社の拡大等についてはどのようにお考えでしょうか。
西川 いままで通り継続して拡大していく方針です。3〜4月にかけて太陽自動車様、三和交通(荒川)様とか、グループ入りしていただきましたが、その流れは変わらないと思っています。
―提携先も含めた国際自動車グループ全体でのタクシーの目標保有台数なんかはあるんでしょうか。
「kmブランド」効果を再認識
西川 以前に関東近郊で5000両構想というようなお話をしたことがあったかと思いますが、「いつまでに」という期限は切っていませんでした。これは市場の状況ということが大きくかかわってきますから、そういうものでしょう。
今回のコロナ禍で痛切に感じたのは、当グループでも「km」のブランドを掲げていない会社が子会社にあり、その比較でkmブランドと非kmブランドの売上は顕著に違っており、改めてブランドの効果というものをわれわれ自身も再認識しました。
目標達成の期限は切っていませんが、すでに4000両ほどになっていますから、できるだけ早い時期に到達できればとは思っています。
―提携先事業者のタクシー総数とkm本体+直営子会社のタクシー総数の比率にルールはあるのでしょうか。
西川 基本的には半々くらいと考えていますが、市場動向や相手のあることですので、その時々の判断で対応していくことになります。
―事業改革協力金の支給について、その制度の趣旨などを伺いたい。
西川 例年ですと、3月に労働組合からの生産協力金を含めた生活改善要求の提示に対して回答しています。コロナ禍という問題を抱えながら、これだけ先の見えない、何が起こるかわからないという環境の中で、会社としては従来レベルでの回答をするわけにはいかないという判断をしました。ただ、臨時給は、生活給の一部であるという考えから、ゼロというわけにもいかないだろう―と。
そういう中で、臨時給の回答はできませんでしたが、これからわれわれも会社を改革しながら新しい方向へ向かって汗を流していくので、そういうことに対して社員の皆さんにも協力をしていただきたいという意味で、「事業改革協力金」を出させていただきますという発表をしました。
―MaaSビジネス領域についてもお尋ねします。MaaSはスマホアプリなしには成り立たない事業だと思うのですが、御社として運用されているアプリにはみんなのタクシー、フルクル、kmタクシーアプリもあります。それぞれの役割分担、MaaSでは何をどう使っていくのかをお聞かせください。
単独では「フルクル」重視
西川 一般的な意味でのアプリの運用については、当社単独ではフルクルを重視しています。フルクルについても今は当社単独での使用ですが、今後はもう少し外へも広げていきたいと考えています。「S.RIDE」を横浜で使い始めましたが、フルクルも横浜で運用していくことにしています。これをもう少し、皆さんに使っていただけるような商品に育てていきたいなと考えています。
kmタクシーアプリについては、将来的にはみんなのタクシーのS.RIDEに統合していこうと考えています。
また、MaaSについてですが、当社単独でMaaSプラットフォームとくっついてもあまり意味がありません。ある程度の台数が必要だと考えており、そういう意味ではみんなのタクシーと、その他の検索アプリ等とも一緒にやっていくとか、JR東日本様を含めいろいろな試みに取り組んでいますが、方向性としてはMaaS領域ではみんなのタクシーの力を生かしていければと思っています。MaaS自体がどういう形でモノになるかはまだまだ見えてきませんが、いずれにしてもかかわりは持ち続ける必要があるでしょう。
―ウィズコロナの時代になり、大企業を中心にテレワークが当たり前となり、中堅、中小企業にも広がっていくとなると人の動きは以前より少なくなる可能性があります。人の移動がなくなるとタクシーであれ、ライドシェアであれそもそも移動に対する需要が減っていくという懸念があります。
タクシー事業はいまのまま続けられる?
西川 そう考えると、タクシーがいまのような形で永続的に事業ができるかどうか、根本的な課題として残るんだと思います。そして、コロナ感染症の第2波の危機が来ないとは言い切れません。ワクチンができるまでは、現在の生活様式が抜本的に元に戻ることはない思いますし、戻らないことを前提に対策を実行していく必要があるのが現状ではないかと思います。
―今後のタクシーの稼働予定についてもお聞きしたい。業界全体で見ると、総需要も少しずつ回復しつつあるとは思いますが、需要回復よりもタクシー業界全体での稼働復活のスピードの方が少々早いように思います。そうすると、いったん盛り返してきた日車営収もまた下がり始めることも懸念されます。
西川 皆さん様子を見ながら手探りで稼働を復活させていくということで、日車営収の状況なども確認しながら、上げたり下げたりを繰り返しながら行くということになるのではないでしょうか。各社、どのような稼働率とするか需要の波を捉えながら探っていく。柔軟に対応できるような環境を作っておく必要があるでしょう。
―そうすると、国際自動車としても需要の波動を見極めつつ、また、他社の稼働状況もみながら、自社グループにおいても出番調整などを行っていくこともあり得ると?
西川 そこは柔軟に対応していくしかないのではないか。東京アラートや緊急事態宣言みたいなことがあると経済活動が止まってしまうということがありました。そういった事態の変化には敏感に対応していく必要があるのだと思います。
雇用調整助成金(特例措置)も10月以降、出るのかどうかまだ分かりませんが、これからは助成制度の先も考えていかなければなりません。
―バス事業の小型観光自動車事業への転換についてもお伺いします。その狙いや背景、従来の貸切バス事業との違いはどういった点にありますか。
西川 大型バス車両を維持し、長距離輸送というスタイルでは、車内は「密」にならざるを得ません。そういう環境の中で、お客様が獲得できるのかと考えると、この2月以降、一部を除いて観光(貸切)バスの仕事は大きな影響が出ています。
観光バス事業は当社の中で、コロナ禍でのダメージとしては一番大きい。これからは集団での移動よりも、小型バスでの何人かでの旅行などに絞って方向転換をした方が良いだろうということで、バス事業の小型観光自動車事業への転換を謳っています。この事業形態は、ハイヤー事業と相通ずるところから、国際ハイヤーと互いに連携をとっていく必要があると考えています。
―20年3月期決算についてはいかがでしたか。コロナ禍の影響はどうでしょう。
西川 グループ連結で約528億円の売上で前期とほぼ同じです。2000万円くらいのプラスにとどまっています。2〜3月ではタクシー部門は前年同期の85%程度の売上にとどまっています。バス事業はこの2カ月の影響で大幅な減収となりました。ハイヤー事業では、売上で1億円程度のプラスでした。
―4月以降も厳しい状況が続いていると思います。そうした中で東タク協の本年度の事業計画には、東京都特別区・武三地区のタクシー運賃改定に関する調査・研究という項目が盛り込まれていました。国際自動車として、同地区でのタク運賃改定について、どのようにお考えになりますか。
特区・武三の運改「できるだけ早く」
西川 それはできるだけ早くやった方が良いと思います。コロナ禍以前の問題として、キャッシュレス化が劇的なスピードで進んでおり、当社においてもその売上に占める比率は年々増加しています。決済手数料の負担は非常に大きなもので、タクシー運賃が総括原価方式で査定される中で、前回12年前の運賃改定審査時とは原価構成が大きく変わっており、決済手数料負担は重いわけです。基本的には運賃改定はやらざるを得ない状況にあると考えています。
コロナ禍以前に、われわれはIT関係投資を相当してきています。そしてこれからもまだまだ続きます。それらも含めて、タクシー事業の構造そのものの変化も踏まえ、事業者として対応していかなければなりませんし、そうした投資にも積極的に対応する前提で改定は急いでやるべきことと考えています。
―フードデリバリーや救援事業についてはいかがでしょうか。赤字の穴埋めができるほどのものではないとも言われていますが、期待も含めてお聞かせください。
タクシーを使って生活を豊かに
西川 貨客混載やMaaSなどさまざまなサービスが登場しています。そういう環境の変化がある中で、当社としてもいまから足腰を鍛えておかないといけないという面があります。いきなり、コロナ禍で減った売上を補完できるようなビジネスになるとまでは当然思っていません。ただ、将来をにらんで通常のタクシー運賃以外の収入源を考えておく、そのための準備という位置付けになるでしょう。
タクシーを使って、お客様の生活をどんなふうに豊かにできるのかということはいまから考えておかないといけません。
―最後に、特にアピールしたい点などがありましたらお願いします。
西川 コロナの状況を受けて、当社の社員に対して、公共交通機関を担う一員として「コロナに感染してお客さまに迷惑をかけないという想いを強くしてほしい」ということです。
ウィズコロナ時代には、誰に対しても等しくリスクがある。そういうことを自覚してほしいし、今回の事業改革に当たって「社内向けメッセージ」(*車内ビニールカーテンの設置、手洗いの励行、マスクの着用、感染リスクの高い場所へ行かない)を出しています。皆が責任を自覚しなくてはクラスターも発生してしまいます。社内から感染者を出さないようにということでもあります。社員及びお客さまが感染しないように会社としては、こういう対応をしますということであり、その思いを理解していただければと思います。
今回の事業改革は、将来のグループの発展を決する重要な試金石となります。今まで通りに仕事をするのではなく、全社員が一人一人の意識改革を行い、困難を乗り越えていかないといけないと考えています。
―有り難うございました。(7月3日、港区の国際自動車本社で収録)
<Topへもどる>
|