３月下旬開催の与野党タク議連総会などに報告された今年３月１〜14日までの全タク連によるサンプル調査結果（別表１＝略）によると、全国47都道府県の総営収の減少幅は概ね25〜35％に収まる。このうち、東京６社の調査結果は25.5％の減収とされ、サンプル中の最大減少事業者の場合は35.8％の減収となっている。これらの数字は実働日車営収ではなく、総営収での調査であるため、減収率には人手不足に起因する実働率の低下による部分も含まれている。とはいうものの、新型コロナウイルス感染症の拡大により、大事をとって休む乗務員が増加し、例月よりも実働率の低下が上乗せされているということもあるいはあったかもしれない。

２年半近くの低空飛行〜リーマンショック
　これほどの大幅減収というと、近年ではリーマンショックと東日本大震災直後が記憶に新しいと先にも触れた。リーマンショックは、08年９月、米・リーマンブラザーズ社が米国内におけるサブプライムローン問題の影響を受けて連邦破産法を申請、事実上経営破綻したことに起因する世界同時不況を指す。
　東タク協の調べによる全社輸送実績によれば、08年度の東京都特別区・武三地区の実働日車営収（全車種区分平均、税込み）は４万6333円（税抜き４万4127円）で、前年度の５万742円（４万8326円）に比べ8.69％の減収になっている。年間ではこのような数字だが、リーマンショック発生当月の08年９月は４万6245円（税抜き４万4043円）、10月は４万5582円（同４万3411円）、11月は４万4693円（同４万2565円）と推移し、年末繁忙期の12月は４万8264円（同４万5966円）と、やや持ち直すが、年が明けると一転して１月は４万2693円（同４万660円）、２月は４万1987円（同３万9988円）、３月は４万3869円（同４万1780円）と低迷を続けており、リーマンショックそのものの発生から少なくとも半年程度は低営収に苦しんだ。
　さらに言えば、翌年度の09年度の日車営収は４万1148円（税抜き３万9189円）、10年度は４万1915円（同３万9919円）となっており、営収水準は２年半近く低空飛行を続けたということになる。

１年程度影響続いた東日本大震災
　一方、東日本大震災は11年３月に発生。福島第１原発の事故と合わせ東北や関東地方に大きな被害、影響を及ぼした。震災翌月の11年４月の日車営収は３万9316円（税抜き３万7444円）で、以降、５月は３万9710円（同３万7819円）となっており、６月からは４万3748円（同４万1665円）と４万円台を回復するが、震災発生の１年後に当たる年度末までその水準は必ずしも高くない状態が続く。
　営業収入の水準から言えば、リーマンショック後間もなくから、東日本大震災発生１年後程度まで通算して３年ほどの期間、税抜きベースでの日車営収が４万円を挟んで行ったり来たりのレベルでもなんとか経営は持ち堪えてこられた。

需要減退が続く中でのコロナショック
では、今回の新型コロナウイルス感染症の影響拡大の中でも同じくらい持ちこたえられるかというと話はそう単純ではない。ここ10年ほどの間に日本社会全体の高齢化、人口減少が進み人手不足が深刻化しており、リーマンショックや震災、伝染病などの特殊要因がなくてもタクシーの実働率は毎月のように前年割れが続いていたため、日車営収の数字にかかわりなく、総営収は前年割れが常態化してきたこと、加えて安倍政権下で毎年のように地域別最低賃金を引き上げたため、低営収下での最賃割れ乗務員の急増が避けられないこと、アプリ配車やキャッシュレス決済の普及など事業活性化に伴うコスト増が続いており、同じ営収なら以前より経営は苦しいというのが実態だ。

営業スタイルで二極化も
　記者が直接事業者から聞き取ったところでは、３月の営収水準は全タク連のサンプル調査と大きなズレはなく、平日の日車営収で３万円台後半（税抜き）とか、前年同期比25〜35％前後の減収というもの。ただし、いわゆる最賃割れとなる乗務員の数はこの１カ月で急速に増加しているという話も聞く。また、これまで紹介してきた数字はサンプル調査を別として輸送実績は全事業者の平均値を示しているに過ぎないということ。近年の急速なアプリ配車の普及等により営収が減る中でも、配車回数が増加している事業者については迎車料金分の収入がその会社全体の減収をある程度吸収するクッションの役割を果たしており、依然として流し営業中心の事業者よりも打撃が小さくなる傾向もあるようだ。日車営収の数字がリーマンショックや東日本大震災当時と業界の平均値としては似ていても、現在では迎車回数を加味すればより減収が大きく出る事業者と少なめに出る事業者の両極に分かれていることもあるのかもしれない。
　そのようなことがあったとしても、近年まれにみる減収に見舞われ、コスト増ともども経営環境の悪化が著しいことは間違いない。事業者の意識としてはいまのこの苦しさよりも、出口が見えないことの苦しさ、不安感がより強いのではないか。
政府や東京都は、オリンピック開催延期の判断の遅れで後手に回った各種業界支援策を速やかに、かつ、切れ目なく打ち出してもらいたいものだ。（了）
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