―経済同友会の規制・制度改革委員会内での提言検討の経緯についてお尋ねします。そもそもの検討の動機についてお聞かせください。どのような頻度で会合を開催し、また、国交省やタクシー事業者、ライドシェアプラットフォーム、シェアリングエコノミー関係事業者等からのヒアリングを実施されたのでしょうか。
間下 規制・制度改革委員会では、第4次産業革命と言われている新しいテクノロジーの社会実装において障害となっている規制の見直し、もしくは規制がなくて社会実装が進まない分野を中心に取り上げ、規制改革に関する提言を発表してきました。基本的には月1回くらいの頻度で会合を開催しており、ここ数年では年間で2〜3つくらいのテーマを扱っています。
これまでに「規制のサンドボックス制度」や住宅宿泊事業法(民泊新法)、オンライン診療・オンライン服薬指導に関する意見等を発表してきました。そうした社会的課題として認識しているテーマについて関係者へのヒアリングをした上で、委員会内で議論し、提言や報告書として取りまとめています。
今回の提言についても、タクシー事業者やシェアリングエコノミー関係の事業者、行政などへのヒアリングを繰り返しながら、タクシー業界が抱えている課題や、ライドシェアにおける課題等について整理をした上で、提言を取りまとめました。
需給バランスがどんどん崩れている
背景には、需給バランスがどんどん崩れてきている―という問題意識があります。需要で言えば東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会などの大規模な国際イベントの開催を控えており、訪日外国人観光客数も年々増加しています。
また、高齢者の運転免許の返納も進む一方で、全国的に乗合バスの廃業が相次いでいます。ラストワンマイルを担う移動手段としてのタクシーの重要性が高まっている中で、ドライバーの高齢化が進んでおり、新しい人員をなかなか確保できない。都心では、特定の時間帯や天候により、ドライバーが足りないがゆえにタクシーのサービスが提供できないケースがあります。地方では時間帯に限らず、サービス提供ができない地域もある。こうしたタクシー業界の課題を解決する現実的な方策を提言として発表しているということです。
―経済同友会は東京の経営者で構成されていることから、提言のうち過疎地等での対応よりも、むしろ都市部における朝の通勤時間帯におけるタクシー供給不足に重点を置いているのでしょうか。
間下 必ずしもそうではありません。経済同友会は経営者が個人の資格で参加している団体ですが、多くの会員所属企業は全国で事業を展開されているため、「東京」に重点を置いているということではありません。委員会のメンバーが、それぞれ全国、地方の実情やご経験を踏まえた上で議論を行ってきました。
―提言の中では具体例として朝の通勤時間帯として午前7〜9時など特定時間帯のタクシー不足ということが書かれてていますが、これについては、何か裏付けがあるのでしょうか。
ユーザーが実感する朝の供給不足
間下 明確な裏付けは正直なところありません。定量的なデータをいただけているわけではありませんが、朝の通勤時間帯や悪天候時については、配車アプリを利用しても、タクシーがなかなかつかまらない。そのように不便さを感じることはわたし自身も体感していますし、利用したことのある方はほとんど同じ経験をされている。
委員に限らず、ヒアリングをした多くの関係者とも、そのような問題が確かに存在することについて認識を共有しており、ユーザーの実感として、供給が不足していると考えます。
―提言内容実現のための今後の活動方針については、どのようにお考えでしょうか。自家用有償旅客運送の拡大については政府の規制改革推進会議や国交省の交通政策審議会・地域公共交通部会でも審議されてきた経緯がありますが、これらの会議やその他の政府系会議等で意見を述べたり、ヒアリングを受ける予定や意向はありますか。
間下 そうした会議で機会をいただけるようであれば、意見を申し上げていきたいと思っています。
規制改革推進会議や未来投資会議など、さまざまな会議体で、われわれの考え方を理解していただく場があれば、積極的に意見を述べたいと考えています。
―経済同友会の方から、ここへ呼んで話をさせてほしいという働きかけはしていないんでしょうか。
間下 詳細は控えさせていただきますが、独自に働きかけや発信を行っています。
―自家用有償旅客運送の拡充については交通政策審議会・地域公共交通部会の中間取りまとめの内容に沿ってすでに道路運送法改正案が閣議決定されており、新たに法案の内容に修正を加える機会を見出すのは難しいのではないかとみられますが、この点についてはいかがでしょうか。
間下 今回の法改正によって、いま抱えている課題が解決するかどうかといえば、難しいだろうと考えています。向かっている方向性はあまり変わらないと思いますが、改正後の道運法の運用状況も見ながら、引き続き意見を申し上げていくつもりです。
タクシー事業者にもいろいろな意見
経済同友会では、一企業や特定業種の利害を超えた立場から議論を行っているため、提言により社会課題が解決するか否かが重要になりますし、タクシー業界も個々の事業者はいろいろな意見や考えを持っておられます。
ライドシェアについても、「活用したいけど言い出せない」という事業者もいらっしゃるので、そういった方々の声をしっかりと拾い上げていきたいと思っています。
―いわゆる自家用車ライドシェアの合法化については新経済連盟がたびたび提言していますが、新経連と経済同友会の提言の違いについてはどのようにお考えでしょうか。
間下 第1種運転免許保有者が自家用車を使って誰かを有償で運送すること自体は大きく変わりませんが、世界で行われている一般的なライドシェア(事業主体自らは運送せず、配車プラットフォームにおいて一般ドライバーと乗客を仲介し、一般ドライバーが自家用車を用いて有償による運送を行うサービス)、新経連さんが提案されているのもこれに当たると思いますが、これはもともとタクシー業界をディスラプト(*破壊的変革)するために出てきているモデルでもあります。それゆえに日本で導入することを考えると、良い面も悪い面も多くある。
タクシー業界の課題を解決するために
われわれが提言している「日本版ライドシェア」は、タクシー業界の課題を解決するために、タクシー会社が運行管理をすることにより、需要に合わせた柔軟な運送形態、すなわち現実的なライドシェアの形を作ろうとするもので、その点が根本的に異なると思っています。
ディスラプター=破壊者としてのライドシェアを求めているわけではなく、いまタクシー事業者が抱えている課題への解決策として、こんな方法も考えてみたら良いのではないかということです。
―交政審地域公共交通部会における自家用有償旅客運送に関する道路運送法改正論議での中間とりまとめと、同友会の提言に記者個人としては大きな違いを感じていませんが、一方で、「輸送サービスの提供がバス、タクシーにより難い場合」という前提について、提言ではあいまいにされています。加えて提言書に「日本版ライドシェア」と書くことによってかえってタクシー業界の抵抗は強まるのではないかと思えたのですが、その点はいかがでしょうか。
間下 「日本版ライドシェア」と名付けることについて、そのような意見も確かにありました。しかしながら、そもそもライドシェアと言った時点で、考えることを拒否する日本の文化を何とかしたいとの思いがあります。
国交省もタクシー業界もライドシェアは何でも反対、何でも禁止というのはおかしいでしょう。中身をきちんと読んでいただいた上で、議論すべきであるとのメッセージが「日本版ライドシェア」という名称には込められています。
また、「ライドシェア」と強く打ち出さなければ、誰にも注目してもらえないという懸念もありました。認識してもらえたら、あとは中身を読んでいただく必要があります。中身も目を通してもらうことで、一般的なライドシェアの導入とは違う主張であることを知っていただく必要があるし、「ライドシェアだからダメだ」とおっしゃっている方がいるのであれば、「まずは中身を読んでください」と言いたいですね。
「バス・タクシーにより難い」前提は…
「バス・タクシーにより難い場合」という前提については、例えばバス事業者がその地域に存在しているにもかかわらず、路線バスが運行していない時間帯があるという場合や、夜間の一定時間帯だけ輸送手段の供給がない地域も多い。そういうことも含めて考えると、その前提に立ってしまうと、われわれの提言を実現できる地域がほとんどないということになりかねない。供給者がありながら、特定の時間帯などで供給がされないために、住民が困っているという課題を解決したいと考えています。
自家用有償旅客運送制度は、そもそもバス・タクシー事業が成り立たない場合に認められる制度で、今回の改正は、交通事業者が協力する形の制度や輸送対象に観光客を含めることを法律で明確化することで、これまで必要としていた合意形成手続きを簡素化する目的があります。
しかしながら、地域における合意形成の課題は、必要以上の制約や関係者間のしがらみなどで議論が進まない点にあると考えます。地域における合意が成り立ち、一部の地域で実施できたとしても、実態としては対象範囲や区域に制限がかけられているなど、今後、制度を見直していくために役立つデータすら取れない運用方法になる懸念があります。そこは変えていく必要があるのではないでしょうか。
―今回の提言についての地方の経済同友会からの反応等についてはいかがでしょうか。地方と意思調整を行って、全国の経済同友会の総意としてとりまとめるお考えはないのでしょうか。
あくまでも「規制・制度改革委の意見」
間下 これまでのところ、地方の経済同友会から反応をいただいているわけではありません。今回の提言も全国の経済同友会の総意というわけでは決してありません。あくまでも経済同友会の規制・制度改革委員会の意見として出しているものです。同友会全体が足並みを揃えて提言と同じことを言っているわけではないです。
経済同友会の提言は、原則として委員会で議論したものを機関決定の場である幹事会で審議し、了承を受けることで対外発表しています。しかし、会員は個人の資格で参加していることもあり、必ずしも同じ意見とは限りませんし、経済同友会は業界団体ではないので、機関決定したことが全会員の意思ということではありません。
ただ、組織としての機関決定はしており、この提言の公表については皆さんの同意を得ています。当然、この意見に反対の方が組織内にいてもおかしくはありません。
―他道府県の経済同友会と意見調整を図るということは難しいのでしょうか。
間下 全国の経済同友会とは上部組織、下部組織とか中央と地方という関係ではなく横並びですので、そもそも調整を図る必要がありません。その意味では他地域の経済同友会から反対の意見が出てもおかしくはないでしょう。
業界団体とはまったくタイプの異なる組織ですので、委員会が発表する提言について、各地域間で調整して一本化を図ることはありません。
―提言における日本版ライドシェアでは、既存交通事業者(タクシー事業者)の関与が不可欠となっています。タクシー業界側との意見交換などについてはどのようにお考えになりますか。
これまでにも何人かのタクシー事業者からのヒアリングを実施したということですが、経済同友会には全タク連会長・日本交通会長の川鍋一朗氏も会員として加わっていますが、何か意見交換していないのでしょうか。
間下 川鍋さんは提言の内容についてはご存知ですが、直接、議論をしているわけではありません。いろいろなところで議論が進むべきであって、政府でも事業者の方であっても、積極的に議論をできる機会があれば歓迎したいですね。
―タクシー業界においても初乗り距離短縮運賃や事前確定運賃の導入の実績があり、今後は相乗りタクシーの運行などさまざまなタクシーの進化に向けた努力を続けています。これらの努力に対する評価や現在の業界の姿を踏まえてタクシー事業者の皆さんへのメッセージがありましたらお聞かせください。
間下 いま取り組まれている改革は大変素晴らしいと思っています。ユーザーの利便性も高まっていくと思うので、生意気な言い方になりますが、「高く評価すべき」と考えています。
ただ、課題が残されているのも事実ですので、われわれが提言している「日本版ライドシェア」のような仕組みの実装についても考えていただけないでしょうか。これはタクシー業界が自身の力で抱えている課題を解決し、ビジネスを拡大できるかという議論でもあるので、その点も考えていただけると有り難いと思います。
1人のユーザーとしては、都心や地方に限らず、利便性が上がることも重要です。また、訪日外国人旅行者等が快適に観光できる移動環境を整え、「日本の取り組みは進んでいる」と言ってもらえるようになると良いなと思っています。
―有り難うございました。(2月25日、港区のブイキューブ本社で収録)
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