―JapanTaxiとMOVの事業統合に至るまでの経緯について伺いたい。いつごろから統合について話し合われ、そもそもどちらから持ちかけた話なのか。
「どちらからともなく」同時発生的に
中島 どちらからというお話からしますと、「どちらからともなく」というのが実情です。双方でそういう話し合いが同時発生的に、議論されたというのが実態です。業界全体としてはゆるやかに、半ば冗談みたいに、「そろそろギブアップしないの?」みたいな話は、DeNA、JapanTaxiの両社に限らず話していましたし、本格的にということであればここ1〜2カ月くらいでしょうか。「乗るか反るか」みたいな詰めた話は、ほんの数週間前になって急転直下で決まっていったというところです。
―とりわけ、DeNAは上場企業であり、アプリ事業の赤字が常態化していること、黒字化の見通しが立たない状況に対して株主からの圧力は相当のものがあったと想像できますが、その点も事業統合を急いだ理由になったのでしょうか。
中島 当初、MOVを始めた時よりは市場環境の悪化、競争の激化はより厳しくなったと思います。それをもって、黒字化の目途が立たないという言い方もできますが、当初の計画でもかなりの赤字を抱えつつ時間をかけて育てていく分野でもあるということは言っていたことです。そういう意味では想定内ではありますし、事業の成長という意味ではかなり着実に進んでいましたし、単独でやっていくという選択肢もあったとは言えます。
とはいえ、内向きの闘いがすごく多くて、本質的に業界課題に向き合っていくという面での力がかなり削がれるというのはすごく感じていて、建設的な統合のような話が出てきて、それによって内向きの闘いがなくしていけるのであれば、それは前向きに捉えたいというふうに考えていたということであり、その点では川鍋(一朗)さんも同じだったのではないでしょうか。
―ここでいう、「内向きの闘い」とは具体的にはどんなことでしょうか。
中島 例えば、過当なマーケティング合戦ですとか過当な提携事業者さん獲得合戦のようなことはがあげられます。健全な競争としてはあって良いことですが、全輸送に占めるアプリ配車比率が2%にしか達していない、そんな状況で互いにドンパチやっていても誰も幸せじゃない。ユーザーも幸せじゃありません。当然提携事業者も幸せになれない。これはちょっと、こういう環境は変えないといけない―ということはありました。
―そういう内向きの闘いを双方ともに長期に渡ってやり続けるのはちょっとしんどいなと?
中島 やり続ける覚悟は両陣営ともにあったと思うんですが、一緒になることによって重複する部分をなくしていくようなことは魅力的な話だと、両陣営ともに映っていたということはあったと思います。
―4日の記者発表会でも配車事業黒字化の見通しについては明言されておらず、事業構造として収益化がなかなか難しいんだろうと見ています。一方で、米・ウーバーテクノロジーズは2019年の単年度決算で配車事業部門の黒字化を達成したと発表しています。急激な収支改善についてのどのようにご覧になりますか。
中島 中国市場があり、北米市場があり、欧州市場があり、日本市場がある。また、アセアン諸国の市場があります。グローバルな中で各交通圏があり、日本交通圏において、しっかり黒字化できるとしたら、われわれの新体制以外にはないだろうと思っています。日本においてサステナビリティ(持続可能性)のある事業展開をしなければならないという責任はすごく感じています。
タクシー事業者の経営改善ビジネス
黒字化に向けたビジネスモデルという意味では、やはり他の国とはかなり状況が違っている、市場環境が違っているので一概に他国ではいまこうだから、日本では難しいんだとか、逆に他国でも成功したから日本でもできるんだという言い方は少々乱暴かなという気がしています。特に日本においては、ライドシェアのような個人が個人のクルマでドライバーになれるという環境にはなく、まずサプライサイドはまったく違うビジネスですねということがあります。ユーザーサイドも他の国と比べると、日本はアプリを使いこなせる人の数もそんなに多くない。そういう中でどういうビジネスモデルを描くのかとなると日本独自のものを作っていかなければならないだろうなと思っています。
やはり日本はタクシー産業が相対的には他の国より成熟し、発展しているので、既存のタクシー産業を起点にして、どう進化させていくのかという考え方で見るべきだと思っており、他の国ではユーザーと個人のドライバーをマッチングするアプリという位置付けですが、日本の場合は、旅客運送事業者さんの経営改善ソリューションビジネスというふうに見ないと黒字化の道は描けないだろうと考えています。
いみじくも、JapanTaxiさんも、MOVも、そういう視点でこの市場を見て事業展開をしていたので双方、それぞれの方針を変えなくてもともに歩んでいきましょうということになれた。その視点でビジネスを展開していけば着実に黒字化していけるだろうということはあるでしょう。その可能性は高いと思っていますよ。
―日本とそれ以外の市場が大きく違うということには同意しますが、それはつまり他国での成功に範をとることはできないと同時に、日本オリジナルのビジネスモデルでの成功例もいまのところないということでもあります。およそ、どの程度のスパンでの成功、黒字化をイメージされていますか。
黒字化は5〜6年後?
中島 おそらく事業のフェーズとしては、立ち上げたばかりのスタートアップ企業ですよというよりは、もう何度か資金調達もしていて、次は大規模調達ですよというフェーズのスタートアップなので、「10年かけて黒字化を目指します」なんていう贅沢なことを言っていられる状況ではありません。一方、この事業領域の難しさを見ると、「1〜2年で黒字化できますよ」というほど甘い状況でもない。まあ、その中間のどこか―ということではないでしょうか。
―どちらもそれぞれの持ち味、強味があり、それぞれのブランドも一定程度浸透していると思いますが、社名やブランドにはどのよう反映されるのか。JapanTaxiもMOVもつかない名前はピンとこないのですが、その点はいかがでしょうか。
中島 社名もブランド名も第三の名称でというふうに思っています。今回、ドライブチャートというAIを活用した事故削減のための新サービスも事業として運営していくことになっており、いわゆる配車アプリに限らずモビリティ全体の進化を促していくという考え方で社名を付けようとしています。
新社名は「株式会社モビリティテクノロジーズ」と言います。アプリの名称は別途検討しており、4月1日時点でも決まっていないかもしれません。新会社移行後も、現行の配車アプリはそれぞれで運用していきます。なるべく早く決めたいと思っていますし、期待していただいているお客さまもいらっしゃいますし、急ぎたいと思っています。
現時点でも地域や会社によってはアプリ依存度の高い事業者さんもいらっしゃいますし、毎日のように生活の一部としてご利用いただいているユーザーさんもいらっしゃるので、拙速にやってご迷惑をおかけすることだけはしてはいけないなと考えています。まずは、最低限の準備が整った段階でということですね。ブランドリニューアルという意味では、さすがに初年度中にはやらないと―とは思います。市場での競争は続いていますし、早く統合効果を出していかないといけない。
―それぞれに付いているお客さまもいるし、MOVにすることもできなったし、JapanTaxiにすることもできなかったということでしょうか。
中島 いま建設的な議論になっているのは、きちんと業界の課題を解決していくということ、ユーザーさんに圧倒的な利便性を提供していくためにはどういうふうな選択をするのが最も合理的かということで何ごとも決めていこうという形で進んでいます。
MOVを信じて加盟いただいた提携事業者さんと、JapanTaxiを信じて加盟いただいた提携事業者さんが歴然と存在しており、どちらが上に立ったとか、どちらかが他方を飲み込んだという形になると、逆側の事業者さんにとっては、これまで信じてきたものとか一緒に育ててきたものとかがないがしろにされてしまうという思いを抱いてしまいます。せっかく一緒になっても、業界課題の解決に行く前に元に戻ってしまうことになりかねない。そう考えるとここはやはり第三の名前というのが一番統合効果を出しやすい選択だろうということはありました。
圧倒的にタクシーが呼びやすい状況に
タクシーのユーザーからみると、現在の市場環境では圧倒的にタクシーを呼びやすいという状況をいかに整えるかが大事だと思っています。いまユーザーが愛してくれているブランドがあったとしても、結局いまよりも呼びやすくならないと本質的には価値につながらないので、「ブランドとしては好きなんだけど、あんまり呼んだ時に来てくれないんだよな」というのと、「いままであまり知らなかったブランドなんだけど、呼べばすぐ来てくれるね」というブランドでは、ユーザーのためにも後者の方が良いだろうという考え方をとっています。
―当面はMOV、JapanTaxiそれぞれのアプリが並立して運用されるということでしたが、それぞれのアプリで他方のアプリの提携タクシーを呼ぶことはできるのでしょうか。当面、2つのアプリが存続し、相互乗り入れのような形に落ち着くのでしょうか。
中島 そこの開発を急がなければならないと考えており、技術的にも相互乗り入れが可能であれば4月1日から新ブランドを立ち上げています。なかなか簡単にはいかず、決済の仕組みや決済機そのものであるとか、直ちに解決できる状況になく、現行アプリでの相互乗り入れは4月1日時点では予定されていません。これらの技術的課題が解決できる段階になれば、統合後の新ブランドのユーザーアプリとして相互乗り入れを運用していくということになるでしょう。
―また、新会社における川鍋会長、中島社長の任務分担はどうなりますか。その分担は旧会社の社員の任務分担にも重なるものでしょうか。
川鍋会長との役割分担
中島 詳細まで決めきっているわけではないのですが、川鍋さんとご相談させていただいた範囲で言いますと、国への対応ですとか業界全体への対応については川鍋会長にしっかりお任せするというのが新陣営の成功のためには最適の形だろうと考えています。一方でサービスの運営や業務全般の執行については、「中島さんに任せた方が良いよね」とおっしゃっていただいています。
両社いずれの出身者であるかにかかわらず、体制としては代表取締役社長の下に一律入っていただく形になるでしょう。ただ、そういう方向性で話し合っているというだけで、例外もあるかもしれませんし、とにかく最適な形になるよう模索しながらやっていくということですね。
―全体での社員数や、そのうち技術部門は何人くらいとか決まっているのでしょうか。
中島 正社員で350人前後で、うち半数程度がエンジニアということになるでしょうか。エンジニアの構成比もDeNA、JapanTaxi出身者でそれぞれ半分ずつといったところです。
―事業統合に当たってウーバーを含む海外勢との将来の統合も排除しない考えを4日の記者発表会では述べられました。一方、川鍋会長は本国で自家用車ライドシェアを事業として行っているプラットフォームは国内タクシー事業の潜在的な敵であるとして、連携しない考えを示してこられました。ウーバーやDiDiとの連携もあり得るとなれば、既存提携事業者らの失望を招くのではないでしょうか。
中島 記者発表会の時には、ウーバーを含めて他のプラットフォームとの提携もあり得ると話しましたが、可能性はゼロではないということであり、「可能性の話をここで閉じるべきではない」ということでした。
白タク・ライドシェアには明確に反対
いま、業界で言うところの白タク・ライドシェアに関してはわれわれの新会社・新体制としても大反対です。これまで、MOVにおいてもそのように業界に対してご説明してきましたし、事業者さんとの契約の中では、そういうことがしっかり盛り込まれてきました。やはり門外漢のIT系企業が、口でそんなことを言い、あるいは契約書に書いてあったとしても、「本当なのか?」と、なかなか信じてはもらえないということがあって、「どうしたら信用してもらえるだろうか」と思っていました。今回、JapanTaxi、しかも全タク連・東タク協の会長である川鍋さんが役員に入った状態で新体制で発足するということになった以上、名実ともに白タク・ライドシェア反対という姿勢が明らかになりましたし、そもそもその点で折り合っていなければ一緒になれません。そうした経緯からもそこは信用していただけるのではないかと思っています。
うまく調合すれば「毒」が「薬」に?
一方で、なぜ、ウーバーやDiDiなど海外陣営との統合の可能性を否定しないのかというと、やはり日本においてより事業者の方々にタクシーの進化を成し遂げていただくとか、ユーザーの方々にしっかり利便性を提供していくということを考えると、タクシー事業者の皆さんのためになる形に各サービスが再定義されることが前提となり、サービス形態や意思決定の構造も含めて、腹の底では「タクシー業界をディスラプトしようと考えている人」が経営の意思決定に影響を及ぼせないという環境を整えられるのであれば、事業者の方々にとって非常に魅力的な機会を提供することができますし、ユーザーにとっても非常に高い利便性を提供できるチャンスを手に入れられる可能性はあるなというふうに思っており、これまですごく「毒」だと思っていたものが、うまく調合すると非常に良い「薬」になるかもしれません。現段階でそこまで否定することはないのではないかと―そういうイメージですね。
―いわゆる「ゼロ円タクシー」などの大幅割引キャンペーンは、タクシーユーザーの支持を得た一方、タクシー事業者の中にはタクシー運賃制度の形骸化を招くとの懸念もありました。ユーザー拡大に向けたキャンペーンのあり方についてお聞かせください。統合で体力も強化され、ガンガンやるぞということなのか、一定の節度は必要ということなのか、どのようにお考えでしょうか。
中島 ゼロ円タクシーを実施した当時としては、その時考えていた目的については大成功で達成をされたと考えています。その当時は、MOVに加盟していただいていた事業者さんに、事前にかなり綿密にご説明し、ご協力をいただきました。そうしてご理解をいただいた上で実施もしていました。
当時はまだ知名度も非常に低くて、それこそ業界紙を含めた各メディアの方に、「アプリ乱立時代」と言われても、「MOV」とは書いていただけない状況でした。加盟事業者のタクシー台数としては書いてほしいという台数を確保しているのに、存在として忘れられているような印象でした。市場の認知を上げていくということが主な目的だったわけですが、それはCMを打つよりもよほど効率よく知名度を上げるということは成し遂げられました。当初の狙いとしては大成功でした。
当時は、事業者の方々にMOVも検討の俎上に載せていただくという必要がありました。市場での認知が上がると業界内での認知も上がって、どこにしようかと迷われている事業者さんにとっての検討の俎上に載せることができました。載りさえすれば、良いサービスだという自信はありました。
いまは幸いなことに、日本のタクシー業界の中でわれわれの新体制発足についてご存知ない事業者さんはほとんどいらっしゃらないだろうという状況ですから、単純に業界認知度を上げることを目的とする必要はなく、そういう意味では当時とは状況が違います。
そうすると、いかにタクシーをアプリで頻繁に呼んでいただけるか、どう増やすのかということがより重要になります。ユーザーを1人増やすためにどのくらいのコストを使って良いのかは精緻に分析すれば弾き出せます。その枠の中でやっていれば使い過ぎということにはなりません。自主的にそうした基準を設けながら、やっていくということになっています。それはコストの話ですが、あるいはコストの使い方がCMかもしれないし、クルマのラッピングかもしれないし、クーポンかもしれないし、駅出し広告かもしれないし、そこの形というのはいろいろあり得ると思っています。今後もあの手この手でマーケティングをしていくということではこれまでと変わりありません。
―統合に当たっては、提携タクシー事業者からさまざまな反応が出ています。とりわけ、MOV提携事業者の方の反発が強い印象です。これまでの事業者への説明の進捗状況、事業者の理解が得られたかについてお聞かせください。神奈川業界については、協会をあげて推奨アプリ的位置付けをしてきただけに落胆も大きかったとみられますが、この点についてはいかがでしょうか。
中島 まず、唐突に発表せざるを得なかったというところがあって、大変驚かせてしまったという点はあると思っています。
上場企業ゆえの事情が
本来ですとここまでインパクトの大きい提携の話を公にするのであれば、各業界の主要な方々には最低限、事前に相談してご了解いただくというのがあるべき姿だろうとは思っていたのですが、今回はDeNAが上場企業であり、かつ提携発表の翌日(*2月5日)が四半期決算発表で、あまり良い決算ではない発表を控えていたということもあって株価が乱高下するおそれもあり、仮に事前にお知らせした方やその周辺でたまたま普通に株の売買をしていただけなのに、それが当局から目を付けられるということになると、その方のリスクを誘発しかねないということでかなり強く、「事前の説明は秘密保持契約を結んでいてもダメだ」という指摘もあり、こういう形になってしまいました。
結果としてあまりにも唐突でかつインパクトの大きい発表を事前相談なしでということだったので、大きく信頼を損ねたということは事実としてあると思っています。特に、DeNAが門外漢としてIT業界から入ってきて、ようやく信用していただいて付き合いを開始していただいたというマイナスからのスタートを支えていただいた経緯があっただけにとりわけ信頼を失ったと理解しています。
現状では、それぞれの提携事業者さんにご説明を繰り返させていただいている段階で、最初は多くの事業者の方々からお叱りの声をいただくような状況だったのですが、最近では「話は分かった」と。また、「心配しているようなことはないんだね」と言っていただけるようになりつつありますが、それでも、「まだ懸念は残るよ」とも言われています。
したがって、経過観察ではないんですが、本当に説明の通りなのかというのは実態を見ながら判断していくという形で、いったん振り上げた拳を降ろしていただいているという状況ではないかと見ています。ここから先は、いろいろとご懸念をいただいていることもありますので、本当に態度で示していくしかない。DeNAで配車アプリ事業を始めた初期のころからそうですが、信頼をいただいたのは口先だけではなくて、態度で示してきたというところがあると思っていますので、ここからも態度で示して信頼を回復していくしかありません。
事業者の方々からは「MOVを導入したばかりなのに、使えなくなるのか」とか「日本交通ホールディングスにデータ等が流出してしまう」などの懸念の声をいただきましたが、「そういうことは一切ありません」とご説明し、いまは納得をいただけていると考えています。そうしたご説明を丁寧に行えば、当初あった誤解も相当程度解けたものと思っており、発表直後とは状況が変わってきたと思っています。
―事業統合によって、提携タクシー事業者にとってどんなことがメリットとして考えられますか。一方、デメリットはあるでしょうか。また、すでにDeNAとMOV導入契約を締結し、車載機器やシステム等の納入はまだという事業者に対してのケアはどうなっているのでしょうか。
中島 アプリの統合に関しては、まずユーザーアプリの統合をやろうとしています。事業者さんサイドの乗務員アプリとか会社側で見ているアプリについては無理に統合する必要はないと思っています。すでにご利用をいただいている事業者さんには、「今後もそのまま使えます」という説明をさせていただいている状況ですし、まだ納入されていない段階の事業者さんには契約に基づいて、「きちんと納品して、しっかりサービスを開始させていただきます」ということです。納期の点についてもきちんとお約束通りということです。それが新体制において信頼回復のために一番最初にやるべきことだろうと思っています。そこはご安心をいただきたい。
事業者さんにとってのメリットについては、すごく分かりやすい点で言いますと、まだらにカバーされていたような地域・交通圏、「ここはMOVが強いけれど、こちらではJapanTaxiが強い」というような場合、全体がカバーされた方が乗務員さんにとってもお客様にとっても圧倒的なメリットにつながります。
タクシー業界の進化を加速
もう一つは、ユーザーへのマーケティングも非常に効率的になってきます。それぞれのアプリが別々に打つよりも、効率化された状態で同等かそれ以上の広告を打てるということになるので、お客様を増やしていくという観点でもポジティブだと思っています。これまでの延長線上で当たり前のようにやれば良い話なんですが、やはり業界の進化ということを考えると、新しい機能の導入とか新しいタクシーの乗り方の提案などをしていかないといけないんですが、これらにはテクノロジーが必要になりますから技術者が別々のアプリを別々に開発するより、やはり一つのアプリにして効率的に開発していった方が業界の進化を促すという意味ではスピードアップにも貢献します。
皆さんがワクワクするような機能の提供が早くなるというのが中長期的な観点では一番大きなメリットでしょう。デメリットはいまのところ思い当たりませんね。
―配車関連事業としての決済システムやデジタルサイネージ広告、需要予測システムについては新会社で開発を継続することになりますか。また、DeNAのオートモーティブ事業の一環として取り組まれてきた自動運転開発の行方についてはどうなりますか。
中島 決済機ですとか、デジタルサイネージや需要予測システムなどは新会社で継続して開発を続けていきます。それぞれのサービスで別々の機能がありますが、いったんはまずこれまでのお約束通りきちんと実行していきますし、統合後もご迷惑をおかけするようなことは致しません。
自動運転の取り組みについては、旧MOVでやっていたことでは、「自動運転キットを開発していたんじゃないか」と思われているケースがよくあるんですが、それはまったくやっておらず、どちらかと言えば自動運転時代になった時にタクシー事業者の役割が何で、サービサーの役割が何で、メーカーの役割が何で、ディーラーの役割は何かというようなことについて、どう水平分業していくのかといったことを実証実験していかないと見えてこない部分がすごく多くて、そこを担当していたということがあります。
日産自動車とDeNAが共同で行っていた自動運転「イージーライド」の取り組みは、DeNA側に残ります。2019年度に実施した実証実験でもイージーライドという取り組みとMOVという事業が連携することで、MOVのアプリからイージーライドを呼び出せるということをやりました。そういう意味でサービサーとして配車アプリとしての機能をちゃんと果たしていますよという取り組みは今後も続けたいとは思っています。水平分業の中でサービサーがやるべき分野については引き続き取り組みたいと思っています。
日本の交通発展にはタクシーが不可欠
―既存提携事業者やタクシー業界全体に対するメッセージがありましたら、ご自由にご発言ください。
中島 やはりこの日本において、より交通を発展させていくためにはタクシーが不可欠ですし、タクシーを起点に日本の交通に関する社会課題を解決していきたいと強く願っていますから、引き続きぜひ応援をお願いします。
―有り難うございました。(2月26日、渋谷区のDeNA本社で収録)
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