2020年東京オリンピック開催決定で大きな期待
観光タクシーが目指すもの
東京・神奈川両業界〜最大の課題は乗務員の質の向上

業界の枠超えたネットワーク
　神奈川県タクシー協会（伊藤宏会長）は９月26日、神奈川県ハイヤータクシー会館で「かながわ観光タクシープロジェクト推進ネットワーク会議」の初会合を開いた。業界の枠を越え、地方自治体や産業界、民間団体も巻き込む意欲的な取り組みで、関東運輸局をはじめ県および横浜、川崎、横須賀３市の観光部門、各商工会議所の責任者、ＮＰＯ法人幹部など各界の担当責任者を集め、意見を求めた。
　冒頭、関進・経営委担当副会長は、「集まっていただいた皆様には『かながわ観光タクシー』のサポーターになってほしい。まず横浜、川崎、横須賀の３市で始めるが、すべてのタクシーが利用者におもてなしの心で接してもらいたい。需要を拡大して事業の活性化を図っていくつもりだ」とあいさつした。

「ユニバーサルツーリズム」
　会議の座長には関氏が就任。プロジェクトの担当責任者である藤井嘉一郎・神タ協経営委員長（アサヒタクシー社長）が概要を説明した。事業名称を「かながわ観光タクシー」とし、通常の観光タクシーに加え、ＵＤタクシーの多用途機能を生かし、移動困難者にも観光タクシーを提供する「ユニバーサルツーリズム」を提起。目標については、「ガイド運行ができる」ことを「最終形」としつつ、「観光都市にふさわしい『おもてなしの心』を持った接遇サービス」を浸透させ、乗務員全体がレベルアップされる重要性を強調した。
　説明後、関運局の櫻井浩志・観光地域振興課長は、「原（喜信）局長から『神奈川の観光タクシーに期待する』との言葉を預かってきた。『マンツーマンでツアーコンダクターがつく』といったＰＲとともに、乗務員にインセンティブを出したり、制服や車両面で差をつける方がモチベーションが上がるだろうから、そうしたことも考えてほしい」とし、ＮＰＯ法人横浜シティガイド協会の嶋田昌子副会長は「10年前は腰が重かったが、動き出すと迅速だ。少数精鋭ではなく全体の底上げの方が大切。ルート開発に知恵を絞る必要がある」などとアドバイスした。

３月の出発式へ急ピッチ
　始まったばかりのネットワーク会議だが、来年３月の観光タクシー出発式に間に合わせるべく、タイトなスケジュールで進むことになりそうだ。
　まず11月11日に事業者向けに観光タクシー講演会を開くとともに、同月、同プロジェクトのプレス発表を行う。翌年１月には観光ドライバー認定研修を50人ずつ２回行い、第１期として100人の観光ドライバーを誕生させ、３月には出発式を実施する予定。当面の課題としては、事業者や乗務員の意欲拡大のためのインセンティブ策の構築やモデル観光ルートの検討、学識経験者や観光関連事業者などへの推進ネットワークの拡大―などをあげている。
　観光タクシーそのものが、タクシー事業活性化の大きな柱に位置づけられているのは間違いないが、最大の課題は乗務員の質の向上だという点で、関係者の認識は一致している。
　ネットワーク会議で藤井氏は、「観光タクシーはガイドができる乗務員が最終目標だが、『おもてなしの心を持って接客・接遇ができる、観光都市にふさわしいタクシードライバー』の育成が使命であり、第一の社会的責任」と説明、乗務員資質向上を最大の課題に位置づけた。
　同様の見方は、先行する東京にもあり、昭栄自動車（足立区）の武居利春社長（東タク協労務委員長）は、「高い質が伴わなければ、観光タクシードライバーなどできない」との認識の下、600人の従業員から25人の乗務員(カリスマドライバー)を選抜、外部講師による１回４時間、合計６回の接客・接遇講習を受けさせた上で、東京観光タクシードライバー認定制度に挑戦させている。
　また、日立自動車交通（足立区）の佐藤雅一社長（東タク協経営委員長）は、「観光タクシーが大きく収益に貢献するか―というと、観光タクシーをせずに流していれば通常の利用者を乗せられるという意味では何とも言えないが、乗務員の質向上や新規乗務員の雇い入れにプラス効果はあるのではないか。そこを重視するかどうかだ」と話している。
　需要拡大への期待とともに、タクシー産業自体の変革につながる可能性を秘めた観光タクシーへの取り組みが本格化し始めている。
<バックナンバー一覧へもどる>