民主党タクシー政策議員連盟法案検討作業チーム(WТ)が策定した「タクシー事業法案要綱」が公表されて早くも1カ月余が経過した。この間、全国ハイヤー・タクシー連合会(富田昌孝会長)では全国協会長会議・経営委員会合同会議をはじめ、各専門委員会を通じて同要綱の説明と質疑応答が繰り返され、傘下の各地方ブロック、都道府県協会でも同様の取り組みが進められている。質疑では大きな異論もなく、具体的な減車や運賃申請の取り組み方など実務面を中心としたやり取りが行われ、同要綱に基づく法律案の策定と国会提出は既定路線として多くの事業者には受け入れられているようだ。
本稿では3月23日開催の全タク連全国協会長会議・経営委合同会議の模様を取り上げ、要綱への本格的質疑応答の一端を紹介する。
タクシー事業法の位置づけ〜適正化新法の積み残しに対応する法律具体的なタクシー事業法案要綱の説明は各務正人理事長が一手に引き受けたことは本紙ファックスプレス関東版などで既報の通り。各地方ブロックなどでも同理事長が出張して説明するケースも見られる。タクシー事業法案そのものに対する全タク連の基本的なスタンスには「今回案は民主党タク議連WТの策定したもの。議員、労組、業界の代表が参加したが、最終的にまとめたのは議連。議連が関係者の意見を聴いて取りまとめたものだ」としており、各務理事長によれば「本来は議連から説明を受けられれば良いが、そういうわけにはいかないので、私が説明する。基本は、こういう議論をしてきた結果こうなったというものだ」としている。以下に、事業法概要(通称、一枚紙)と要綱に関する各務理事長の説明を紹介する。
一枚紙の変遷〜本質は変わっていない
各務 要綱の前にタクシー適正化新法の話をしたい。どこまでやれて、どこまでがやれていないのか整理したい。需給等が乱れて問題の多い地域が特定地域に指定され、地域協議会で地域計画を立案し、事業者は特定事業計画を作る。適正化新法の政府案ではそれだけだったが、国会審議の結果、野党の対案もあり、運賃認可基準を「適正原価+適正利潤」に改めた。結果、どうなったかというと、全国で11〜12%のタクシーが減ったが、協会の会員、非会員にクルマの減り方では違いがある。総需要が減っている中で日車営収はプラスになっており、一定の効果はあった。ただし、乗務員の給料は約30年前とほとんど同じレベル。下限割れ運賃も7割近くが減少したが、コアな人々は残っているし、新潟の独占禁止法問題も起きている。
タクシー事業法案は適正化新法の下で起きている4つの課題(@独禁法との関係A減休車非協力事業者が存在することB多重運賃解消の問題C特定地域解除後への不安)を解決するためのシステム。出てきた答えがこれである。ハイタクフォーラム(全自交労連、交通労連ハイタク部会、私鉄総連ハイタク協議会)がかつて言っていた案が下敷きにはなってはいるが、それがすべてではない。
概要案は一年前から「一枚紙」と言われていたもの。業界紙ではしばしばころころ変わると書かれてきたが、表現は変わっても内容は変わっていないとわれわれは思っている。今までの道路運送法の中からタクシーに関する部分を抜き出した。東京、大阪でタクシーセンターを作って適正化事業をやってきたタクシー業務適正化特別措置法、タクシー適正化新法を一本化するというのが<基本方針>で、具体的な中身が<概要>の6項目であり、免許制とするということは当然に需給をみるということ。かつての免許制と違って「クルマを減らす方策も」ということで編み出されたものが更新制だ。
個人タクシーは道運法上は明確に規定されていなかったが、それをしっかり位置づけてほしいという個タク業界側からの要望にも応えたもので、優秀適格というのは、その人の資質に関わることであり、企業のように資格が譲渡されるのはおかしいということで「譲渡譲受は禁止」と書かれている。
運賃料金については、個別会社の個別原価に基づいて査定するということになると、その会社がきちんと経営できていれば、例えば大阪でも500円とか560円とか認可されているが、そこは認可せざるを得ないという法体系になっているので、そこから離れましょうと。地域で標準的な原価を定め、事前に地域の運賃を公示する。その中で事業者が選ぶというのが書かれていることだ。
また、5番目に「運輸規則(省令)の一部規定を法律に引き上げる」と書かれているのは省令よりも法律に書いた方が偉そうに見えるということで労組がこだわったのでそうなっただけのこと。第6項の登録制については全国でちゃんとやった方が良いのではないかということで、制度のない地域へと逃げられないようにした。適正化新法の附則にはすでに書かれていることでもあり、本来政府側でやっていただいても良かったものだ。議連として先取りしたに過ぎず、「全会一致で成立した適正化新法の附則に書かれていたことだ」と全国の国会議員の先生方にも説明していただければ理解を得やすいと思う。
要綱について〜更新制とは何か
各務 タクシー事業法案は条文全部だと150条超となるだろう。ポイント理解のために今回公表された要綱としてまとめられた。これ以上のものはわれわれとしても持っていない。衆院法制局にはあるのだろうが、われわれの手元にはない。
(タクシー事業法の)第1条関係では、法律の目的が書かれている。公共交通だから大事なものだということ。第2条の定義では個タクが新たに入った。免許制については第3条以下で要綱の「免許の申請等」(4〜5条)に、あらかじめ申請期間を定めるとあり、今は随時許可申請できるが、3年の更新ごとに需給をみるタイミングのときしか受け付けないことになる。
免許の基準(7条)については「需給」を見ることになっているが、その根っこは「適正台数の設定」にある。適正台数を営業区域ごとに定める。省令で定めた方法で算出した輸送需要量を勘案した適正台数により、この需要に対してその事業の開始が輸送需要に対し適切であること。地域の適正台数と見比べて不均衡であれば免許されないことになる。
更新時の減車については、例えば100両で免許更新の申請といってもその事業者の属する営業区域が20%の供給過剰なら、20両減らして下さい―ということになる。更新時の減車基準は「公平かつ適正」であること。
公平・適正とは何か? 一律でなければ更新時に収拾がつかなくなるので原則は一律減車ということだ。このとき、適正化新法の下での減車実績も配慮する。任意の取り組みにも配慮しないと不公平になるからこう書かれている。今までやった分はカウントされる。例えば3割減車が更新時に必要だ、となったとき適正化新法で2割削減実施済みの事業者はあと1割で済むが、まったくやっていない人は3割ということになる。通達では守られないため法律で書いてもらったものだ(以上8条関係)。
9条関係では、「事業者団体は適正台数の変更を要請することができる」とある。突発的な需要の増大に対応し、更新期間の3年未満でも変更できるとしたものだ。
10、11条関係の免許の更新は3年ごと。更新の条件は新規免許の基準と同じで見るのは需給だけ。だから更新の手続き、行政事務が大変ということはない。19条関係の事業計画の変更=増車は認可制で地域の需給を見た上で厳しくチェックする。
タク事業法の下での運賃制度〜個別審査からの離脱
各務 次に運賃だが、国土交通大臣が適正運賃を営業区域ごとに定めて公示するとなっている。その範囲内で個々の事業者が運賃額を定めて認可を受けること、更新のときも同様とすることになっている。これまでのように個別事業者の運賃申請を査定するのではない。地域ごとに定められたものから選ぶことになる。地域の実情に合わせた運賃になるものと思っている。14条関係で更新に当たっては国交相が適正運賃の範囲を見直すとあるが、何の事情もなければ何もしないことになるだろう。
運賃改定の手続きについては、例えば消費税が上がった場合など、転嫁したい場合には個別事業者が申請するのではなく、事業者団体が改定の理由を申し出て、地方運輸局ごとに設置された審議会に資料も出して論議していただく。そこで認められて新たな幅の運賃が公示されることになる。
その他〜タク事業法による輸送の安全確保と社会的規制の強化
各務 過労防止等は実質面が変わる(35条)。運転代行等でタクシー乗務員がアルバイトすることなどもあって、タク業界ではしっかり管理していても、明番で寝ないで代行運転乗務することはあり得る。そこへの歯止めとして書いてあるもので、これにより法律を根拠にしっかり社内で指導できるはずだ。われわれにとって良い条項だと思う。賃金規制(38条)については累進歩合はダメということ。通達ですでに禁じられているものが法律に書かれるということだ。
運転者負担に関する規制(43条)については、通常事業者が負担すべき費用の問題であって主に東京業界で多く問題になる。しかし、本来これは名義貸し問題と密接に関連しており、大阪業界などでもかつて低額運賃事業者の一部が「お客さんは運転手」といったことも言っていた。総合的に判断して名義貸し問題との関係があって、こう書かれた。怪しげな賃金体系を禁じるという意味があったのであり、悪い規定ではないと考えたいと思っている。
適正化措置(71〜103条)ついては3つある。運転者登録のほか、東京、横浜、大阪の適正化事業(タク特法根拠)や、3つ目にはトラック業界でやっている適正化実施機関と同じようなものがある。タクセンは利用者と事業者のトラブル防止が主だが今回の適正化事業実施機関の話はタクシー協会と事業者が中心になる。団体として事業者への指導ができるようになると非会員事業者にも法的権限をもって指導できるようになる。ここは議連でも相当議論があったところで、天下り機関だとの批判もある。議連幹部で預かりになっているところであるが、われわれとしては誤解もあると思っており、新たな機関を作るのではなく、既存のタクシー協会が指定を受けるだけなら何も問題はないと思う。
雑則の運転者の賠償責任(128条)については労組側のこだわったポイントで「事故を起こすと車両の休業補償や保険料が上がるから自己負担でクルマを直せ」といった話がある。これは酷すぎるということでこうなった。社内での処分や指導がダメということではないので注意してほしい。
―というような説明が各務理事長からなされ、その後に参加者との質疑応答が行われた。
<質疑応答>
公平な減車とは一律減車か?〜運賃申請のあり方は?
和歌山 話のあった3年更新時の話もわかった。実は近運局管内で駆け込み増車して減車したという人もある。おかしいという話もあり、合法的だという意見もある。
各務 どこかで割り切らないといけない話。タクシー適正化新法のできるときも同じ話があった。7.11通達というルールができた際に、どこかで線引きするしかなかった。自主的な減車をどこからカウントするかという話も同じ。突き詰めれば道運法改正時まで遡らなければならない。
三浦(宏喜・経営委員長) 東京でも自主減車にあたって同様の話があった。新規参入組も既存事業者も割り切るところは割り切るしかないと思う。
埼玉 新法を作ることには大賛成。適正台数の話でも一律という言葉が出た。不公平がないという点では一律なのだろうが、埼玉でも20〜30両の事業者が多く、一律減車となれば経営上は大変厳しい。10数両の会社もあって、経営困難になる可能性もある。われわれはどう考えれば良いのか。
三浦 われわれもいろいろ議論した。東京でも1000両規模から10両まである。2000両の事業者が2割減車というと400両減らさないといけない。それはそれで大手事業者も大変だ。一律に取り組むということが基本なのかなと思っている。ただ、皆さん方から「こういう方法なら公平だ」という方法を提示していただければ、政省令、通達作りの段階でいろいろと話はできると思う。WТで議論した際はそういう考え方が基本だった。
各務 補足すると、最低車両台数を割り込むところまで減車しろという話にはならないと思う。ただ、そこまでは一律ということになるだろう。この法案で進むということになれば、原則はそういうことと、皆さんに得心をしておいてほしい。特に地方部で零細だから嫌だという話をされてしまうと前に進めない。これが通らなかったらどうなるのかということを是非、検討してみてほしい。
埼玉 よく分っているが、その上で聞いた。
三浦 これから法律だけで物事は動かないので、そこは運用基準を検討する中でと思う。
埼玉 運賃に関して、適正額の範囲内でとある。各社で選ぶと。これまでの経過からして選択するときに相談すると談合にならないか。
三浦 相談すると談合になる。しかし、新制度でこれまでより楽になるのは立ち上がりから呼吸を合わせる必要はなくなる。幅についてもこれまでの自動認可より小さくなるし、各社の個別審査もない。
香川 田舎では協会費が払えないから脱退する事業者もいるという現状で、適正化実施機関のための人員を確保できない。登録や利用者との関係はともかく、トラックと同様のことをなぜやるのか。あちらは軽油引取り税のバックがあるが、われわれにはない。どうしてもやるのなら、政令指定都市以上でやってほしい。香川県では絶対無理。
各務 いろいろなことがごっちゃになっているので、整理が必要だ。事業者団体が事業者を指導するだけのことだし、役員を入れるというのも無給の理事という意味で財政的負担はないと思っている。トラックの指導員は全国で約2300人おり、確かに交付金で雇っているが、タクシーの事業者数とトラックのそれでは全然違う。業界がどれくらい汗をかくのかということが試されてもいる。一般社団法人を取ることも簡単なことだし、この条文は既存のタクシー協会のことそのものを指している。
香川 香川は協同組合なので簡単に一般社団法人に移行できない。別組織が必要。
三浦 登録制は全国的にやるしかないと思う。他の二つについては、今日の段階では香川県からそのようなご指摘を頂いたということで預かりたい。
各務 一般社団等と書いてある部分については、事業者団体でと書けば良い。まずは枝葉のところが賛成できないから反対だということではなく、根元の木を枯らすことになるので、前向きに受けとめてほしい。
岐阜 雑則にある、運輸審議会の諮問について聞きたい。
各務 適正台数と運賃の見直しの際にこれを使うものと思う。タクシーは大臣権限はほとんどなく、この条文はカラ条文になると個人的には思っている。次項にある地方運輸局権限で3年ごとの更新に際し適正台数や運賃の範囲について見直しをする際には既存の地方交通審議会にタクシー部会のようなものを作って、そこで審議してもらうような手続きになるだろうと思う。
三浦 何事も行政が一方的にやることはなく、議論の場を設けるためにこうなっている。
埼玉 適正化新法での減車の不公平感について事業法8条によってより公平にということだが、適正台数の算出方法が分かりにくいし、また、新法に移行する際は現行法の適正台数を使うのか、新たに算出するのか?
各務 そこまで議論が進んでおらず、現時点では分からない。法律を作って施行するまでの間に議論があるのだろうと思う。単純に言えばいまの適正台数をそのまま引きずることはないような気がするが、ここは行政が一番嫌がるところだと思うが、どうやって適正台数を決めるのかということがある。そこは何度か試行錯誤しながらでも、少しずつ少しずつ(台数を)下げていくのが一番良いのではないかと個人的には思っているものの、いずれにしろこれからの話だ。今議論しても前に進めない。ルールを作り上げ、それを磨き上げていくということだと思う。
栃木 適正台数、適正運賃は営業区域ごとと書いてあるが、この場合の営業区域とは?
各務 運賃については交通圏単位ではなく、運賃ブロックのことではないかと個人的には思っている。需給に関しては文言通りの交通圏のこと。市町村単位で細かすぎるという地域については法の施行段階に向けて営業区域をまとめていくということはあるかもしれない。
三浦 現行の営業区域は全国で約640地域くらいある。原則はそれを基本としている。運賃についてはブロックが70地域くらいでそれが基本。
自民党とはどの程度話ができているのか?
栃木 範囲をどこまでとするかは極めて大事な問題と思っている。
また、自民党にはこの法案はどの程度の話ができているのか。われわれとしては自民党との付き合いが長い。
三浦 自民党にも議連があり再発足した。タクシーについては金子一義会長だ。幹部会でわれわれがヒアリングを受けた。この問題についても説明をしてきた。
各務 ご承知のような政局だから「はい、分かりました」とはいかないが、タクシー適正化新法成立からの経緯もある。いずれにしろ、今回の案は民主党の党としての決定ではなく任意団体たるタク議連としての決定だ。
どういう運用基準とすべきか
主なやり取りはこんな具合だった。政・省令、通達など今後の運用基準の策定次第で法律の影響が強く及ぶ範囲もまた違ってくる。現時点ではまだまだ分からないこと、決まっていないことが多い。「どうなっているか」を聞くことも大事だが、この法律の成立を前提とするならば、まず「どういう運用基準とすべきか」に関心を持たなければ始まらないようだ。(了)
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