論文は全体で約120ページに及ぶもので、全文に目を通すには結構骨が折れる。第１章「研究の概要」に始まり、第２章「アジアの国・地域の動向」、第３章「欧米諸国の2017年度の動向」、第４章「日本における課題」、第５章「総括」からなる。
　調査研究は17年に欧米諸国を対象としてすでに実施済みであったことに加え、18年版に向けて東アジア・東南アジアの11カ国・地域での文献調査を行った上で、シンガポール、インドネシア、中国、台湾では現地でのヒアリング調査等を実施しており、欧米およびアジアの状況双方についてまとめている。ヒアリングは現地の規制当局、プラットフォーム企業、既存運送事業者の業界団体等（別掲１＝略。以下同）である。
　論文ではシェアリングエコノミーのうち、調査対象をほぼライドシェアに絞り込んでおり、前提としてそのライドシェアを「非営利型」と「営利型」に分類している（別掲２）。

営利型ライドシェアの位置付け
　国内におけるライドシェア解禁、合法化論争において問題になっているのは当然、後者の方であり、諸外国においてはそれについて、「営利型ライドシェアを新たな交通サービス事業者に位置づけて規制する例」「営利型ライドシェアをタクシーより規制の緩やかなハイヤー制度またはそれに準ずるものと位置付けて規制する例」「営利型ライドシェアは非合法であり、容認しない例」に大別されるとしている（別掲３）。
　新たな交通サービス事業者と位置付けた上で規制するスタイルとしてはインドネシアや中国（別掲４、５）のような例、ハイヤー制度またはそれに準ずるものと位置づけた上で規制するスタイルにはシンガポール（別掲６）があげられる。
一方で台湾のように明確に非合法と位置付けられている場合もあり、台湾では既存法令に基づいて非合法であると位置づけられるだけにとどまらず、法改正により無許可有償旅客運送の罰則が強化されている。
　新たな交通サービス事業者と位置付けた上で規制する例には米国の一部の州・市などが含まれるが、一定の規制はあるものの、ドライバーに職業運転免許の取得を義務付けたり、事業許可等の取得を求めたりはしておらず、欧米・アジア各国・地域を通じて最も緩い規制となっており、いわゆるウーバー登場当時に最も近い姿をとどめている。

「白タク禁止」の傾向顕著に
　欧州各国では自家用車による無資格ドライバーの配車サービスは法令で禁じられる傾向が顕著になりつつあり、認められているのはハイヤー等の配車に限られる。
　アジアや欧州各国ではこうした規制スタイルにたどり着く前に、既存タクシードライバーによる激しい抗議行動や、ドライバーが請負か労働者かという身分を巡る訴訟などの頻発を経て現在の姿に落ち着いた経緯も論文中で触れられている。こうした曲折を経てすでに違法であることが確定している例を除けば、一定の規制が敷かれているわけだが、そうした中で営利型ライドシェア事業者（プラットフォーム企業）とタクシー事業者の連携や、タクシー事業者によるアプリ導入の動きが活発化しているというのが新たな潮流となりつつあるようである。後者についてはわが国でも見られる現象であり、前者についても一部大手事業者とライドシェアプラットフォームの提携検討が国内でも報じられているところである。
　（別掲７、10ページ）は、論文中に掲げられた日本のタクシー制度と各国のタクシーや新交通サービス、ライドシェアなどのサービスを比較したもので、一番左に日本のタクシーを置き、そこから離れる（右側に行くほど）ほど規制が緩やかになっていくというもの。とはいえ、日本のタクシードライバーには犯罪歴調査などはなく（表中では唯一）、車齢制限など表中にない項目も考え合わせると日本のタクシー制度の規制が世界一厳格とまでは言い切れないし、さらにインドネシアのようにタクシー、ハイヤーとともに営利型ライドシェアについても台数規制の対象とされており、結果としてそれがプラットフォームとタクシー事業者の連携を促したとみられる例も存在する。

解禁、合法化を求める声と対峙
　各国の法令もさまざまな社会・経済情勢の変化や各種訴訟の結果などで日々変化を遂げており、論文に報告された形態が最終形とも言い切れない。論文自体でもわが国での規制のあり方について「こうあるべき」との言及は避け、安全上の課題などを示すにとどめている。国内では政府系の各種会合でライドシェア解禁、合法化を求める声が絶えることはないが、わが国業界においても常に世界各国の情勢は最新情報にアップデートして論争に備えておく必要だけは確実にありそうだ。（了）
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